【出版時評】電子書籍の急成長で加速する変化

2021年10月5日

 出版業界において、コロナ禍の影響が最も大きかったのは電子書籍かもしれない。昨年の電子書籍市場は前年比28%増の3931億円、今年上半期も2187億円、同24%増と勢いは止まらない。年間ではおそらくコミックス・ムックを含めた雑誌全体と比肩する規模になる。

 

 メディアドゥが小説投稿サイトを運営するエブリスタを傘下に入れたり、LINEマンガの運営会社がイーブックイニシアティブジャパンにTOBをかけるといった再編の動きも、こうした市場拡大が加速させるのであろう。

 

 昨年の巣ごもり消費で紙、電子ともに本は読まれたが、とりわけ電子コミックの伸びが顕著だ。このときに電子を初めて〝体験〟した人々は、その手軽さを実感し、その後も読み続けているのだろう。時間消費でゲームや動画とも競争力があるマンガが電子の力を得たことで、従来の紙の「コミック」以上の広がりとなる。さらに海外への展開も加わる。

 

 同じ出版業界でもこの恩恵を受ける企業と無関係な企業に分かれるが、電子書籍の拡大が加速すると、業界が直面する流通や小売の変化の速度も速まる。

 

 市場拡大は歓迎だが、アクセルを踏み込みすぎた車やスピードが出すぎたスキーのように、制御が効かない状態になるのではないかと、少々心配でもある。         

 

【星野渉】