【行雲流水】文化通信2021年8月2日付

2021年8月2日

 某月某日

 『味の手帖』の巻頭「宮内義彦対談」に同席する。ゲストは住友林業の市川晃会長。味の手帖的には、山々からもたらされる豊かな恵みが海に注ぎ、世界一ともいわれる美味しい魚介類を育んでいるわけであるから、サスティナブルな森林資源の活用のための息の長い地道な取り組みは不可欠であるという話に繋がっていく。同社が注力する間伐材を利用したバイオマス発電もその一環である。

 昨今、木造の中層マンションや商業ビルが注目されている。木肌のもつ温もりはイメージだけではない。コンクリート、鉄、木の箱それぞれでマウスを飼育すると、木箱を棲みかにするマウスが一番長命らしい。熱伝導率が低い木材は体温を奪わないからだ。「木化」した保育園では無垢材の床の上で子どもたちがごろごろする。

 現在開催中の「こどものための100冊」キャンペーンのスローガン、「本で心に豊かな森を作ろう」と妙に符合するぞと膝を叩く。   

 某月某日

 第2回創業75周年記念シンポジウムがオンラインを含めて700名を超える方々にご参加いただき大盛況裡に終了。書籍の粗利の低さと、マーケットイン思想による返品率低減、データ活用など積年の課題について、出版・取次・書店三者の思いが交錯する。

 東急時代、書籍にかかわった数少ない経験がある。駅ナカ事業の運営会社の立て直しに3年間取り組んだ折、ミステリーや推理小説が売られていた駅売店の書棚を「ヨンデルとサガーデル文庫」と命名、「道をひらく」(松下幸之助)や「商いの道」(伊藤雅俊・ともにPHP研究所)などを並べて売上げは伸びたが、如何せん粗利が低く長続きしなかった。書店経営の難しさを体感したことである。

 某月某日

 東急百貨店の大石次則社長、「味の浜藤」森口江美子社長と、ホームコースで久々のへぼゴルフ。

 大石社長は東急で2年後輩、心易い間柄である。森口社長の父上、森口一会長は大学の10年先輩ということもあって、家族ぐるみの付き合いは長い。一会長は、今年70周年を迎えた「東横のれん街」のオーナー会会長でもある。

 「東横のれん街」50周年の折に「趣味は惣菜の買い出し」と公言して憚らなかった父が顧客代表の祝辞を頼まれた。すでに認知症が始まっていて、内心ハラハラしていたスピーチは存外の出来でほっとした想い出が懐かしく蘇る。