【行雲流水】文化通信2021年5月17日付

2021年5月17日

 某月某日

 3回目の緊急事態宣言発出で翌日から休演となる歌舞伎座へ。たまたまこの日のチケットを購入していたのは幸運だった。コロナ禍で、通常2部制のところ、3部制となり、短い休憩を入れても2時間弱。このくらいがちょうどいい。

 お目当ては毎度、尾上菊之助丞。ほとんど"追っかけ"である。「ギフトブック」、「こどものための100冊」どちらのキャンペーンにも選書をお願いした恩もある。

 3月、国立劇場の歌舞伎では武智十兵衛光秀(明智光秀)を、この日は「絵本太功記 尼个崎閑居の場」で光秀の子、光義を演ずる。主君を討った父のための初陣と許嫁との祝言。心の内で別れの盃を交わす場面と、深手を負って戻り、死に臨んでもなお父を気遣う台詞回しは難しいところ。

 今月は「春興鏡獅子」に長男、丑之助君と共演。初舞台からの成長ぶりが楽しみなことである。

 某月某日

 かつて「婚活」というワードを世に出し、今は総務省や内閣府などで少子化や働き方改革、ダイバーシティなどをテーマにした委員会で活躍する、白河桃子さんの還暦を祝うZOOMイベントに顔を出す。感心したのは、お祝いの気持ちを日本の10代の若者とアフリカの母子、それぞれを支援する2つのNPOに寄付するという粋な仕掛けとしたことである。80名近い家族や友人から寄せられた30万円は、ZOOMでも紹介された頭の下がる活動に寄付される。

 そうそう、桃子さんが2月に上梓した「働かないおじさんが御社をダメにする ミドル人材活躍のための処方箋」(PHP新書)は、多くの成功事例が紹介されていてわかりやすく、面白い。

 某月某日

 久方ぶりの映画鑑賞。東京は休館につき横浜で「ノマドランド」を観る。この映画で3回目のオスカーを受賞するフランシス・マクドーマンドが、リーマンショックで家を失いキャンピングカーで季節労働者として各地を転々とする、現代のノマド(放牧民)を好演。行く先々で出会うノマドたちは実在の人々で、誇り高く自由に生きる彼らとの交流の旅を追う。時折の雄大な景観の映像に、馬と車の違いはあるが西部開拓時代をなぞらえたようにもみえる。

 年金では暮らせぬとアマゾンの倉庫や農園、厨房などの裏方で老体に鞭打ち、しかし自分らしい生き方を貫く姿は超高齢社会の日本の近未来像なのかもしれない。