【出版時評】新しい革袋から新しい酒を

2021年5月17日

 トーハンの新本社社屋に入るなり、思わず「これが・・・」と声が出そうになった。これまでと全くイメージが変わったわけだが、そこから同社が持つ危機感と、変化しようとする決意が見えたようにも感じた。

 

 取次というと、出版社や書店の人々が自由に出入りし、仕入や営業、物流、管理など各部門が細かく分かれて仕事をしているイメージだったが、新社屋は、セキュリティーゲートは当然として、個人が固定のデスクを持たないフリーロケーションを採用し、フロアにはスツールやブース、スタンディングデスクなど様々な打ち合わせスペースが設けられている。

 

 完成度の高いシステムなら、それぞれが決まった仕事を正確に遂行すれば事足りるが、新しい発想で変化していくためには、「イレギュラー」や「ひらめき」が重要だ。それを生み出すためには、やはり環境を変えることが早道であろう。

 

 1968年に建設されて半世紀以上を経た旧本社は、人影も備品などもなくなり取り壊しを待つばかりだ。以前の活気を知るものには一抹の寂しさもあるが、日本の出版産業を支え続けてきた巨大な取次システムが、新たな出版プラットフォームに生まれ変わろうとしていることを象徴するかのようにも見える。新しい革袋で革新的な酒が醸成されることを期待したい。

【星野】