【出版時評】ネット企業で挑戦する出版人

2021年4月19日

 ネットニュースメディアが紙の出版を始めたとして話題になったNewsPicksパブリッシングの井上慎平編集長によるセミナー「ネットメディアが打ち出した、新しい書籍出版のアイデア」を開催したが、出版業界の現状に対する強い問題意識を感じた。

 

 井上氏はいくつかの出版社を経てNewsPicksパブリッシングの立ち上げ責任者としていまのポストに就いたが、その前に一人出版社を立ち上げることも考えたという。しかし、自分の「城」を作れても、出版の現状を変える力にはならないと、あえてIT企業での出版事業に身を投じた。

 

 そこではすべてが利用者発想であることに驚いた。それまでいた出版の世界がいかに発信者都合だったかを痛感したという。そう考えたとき、読者、いや生活者にとって「本」の価値とは何なのかを改めて問い直し挑戦を重ねてきた。

 

 そして、議論して答えを見つけようとするよりも、議論しながら行動することで失敗を含めた経験を積むことの方が大切だと話した。それが、読書会のアンバサダー制度や「アウトプット読書ゼミ」などユニークな施策を生み出し、実績にもつながっている。

 

 井上氏はギリギリ昭和の1988年生まれ。こういう若者が業界の枠を超えて新たな挑戦をしていることに勇気をもらった。

【星野】