【行雲流水】文化通信2021年2月1日付

2021年2月1日

 某月某日

 コロナ禍ゆえネタ不足。遡ること緊急事態宣言発出直前、毎度食いモノの話で恐縮だが…。数年来の念願が叶い、静岡の天ぷら「成生」へ。川崎出身の志村剛生さんが静岡の食材に魅せられ2007年に当地に根を下ろした。カウンター7席のみ。

 天ぷらは蒸す仕事である。ふっくらと仕上がった太刀魚はたっぷりの大根おろしで。ブロッコリーは瞬間に油を纏わせて水分と香りを閉じ込める。鱚、牛蒡、アオリイカ、細魚、白甘鯛は海塩もいい。包丁が入った鰆は見事なレア。

 合いの手、地物の野菜サラダがうまい。スナップエンドウ、ケールの新芽、黄金柑と白菜に、燻されたカツオとサクッと揚がった黒キャベツが香ばしい。じっくり1時間は高・低温2つの鍋で泳いでいたサツマイモ(安納芋)は、皮はバリっと、中はむっちりと甘い。天バラは、半分食べたあと出汁をかけて柚子胡椒を落とす。

 某月某日

 『味の手帖』、「茂木友三郎対談」に同席する。ゲストは自称「味覚人飛行物体」の小泉武夫さん。日本経済新聞で毎週月曜夕刊のコラム「食あれば楽あり」は28年目に突入、一度も休載したことがないらしい。毎朝、納豆と漬物と味噌汁を欠かさぬことが免疫力を高め、元気でいられる秘訣であると。全国でコロナの感染者が少ない県のトップは、普段からその3つを摂取する東北6県。世界的にも発酵食文化が根付く東南・東アジアは、欧米と明らかに状況が違っていると、熱く語る。「私は月光仮面ならぬ、発酵仮面」と笑う、どこまでもお茶目な77歳である。

 某月某日

 1月は夫婦ともに年を重ねる月である。コロナ禍にあって静かに過ごすつもりの週末、同年同月生まれの銀座「バードランド」の和田利弘さんと、タベアルキスト・マッキー牧元さん、我々3夫妻で渋谷の「ゆうじ」に。赤身肉とホルモンを、塩とタレでワイン6本とともに胃袋へ。救済のつもりが、間引いた席は満席。焼肉業態は煙を吸い上げる強力な換気で安全性が高いと、どこも好調らしい。

 20時。店を出ても一同、なかなか解散しない。結局、窓からの眺めだけはいい我がウサギ小屋〝トップ・オブ・イケジリ〟で、窓を開放しオーバーを着たままで二次会となる。とっておきのマールが見つかってしまい、抜かれる。

 翌朝は久々の2日酔い。〝とっておき〟の味の記憶が無い。

【文化通信社 社長 山口】