【出版時評】「黒船」が動かす著作権の議論

2020年11月16日

 図書館が資料を電子化して、家庭からでも利用できるようにする法改正が準備されている。図書館資料の電子化は以前から議論されてきたことではあるが、新型コロナウイルス感染拡大で、多くの図書館が休館したことで、気運が一気に高まった。

 

 11月9日に開かれた文化審議会著作権分科会「図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム」第5回会合の報告書では、「新型コロナウィルス感染症の流行に伴うニーズの顕在化等を踏まえ」など、何度も感染症に触れながら、必要性を示している。

 

 出版物を電子化し、今までよりも利用しやすくするという流れは当然のことではあるが、一方で権利者側はなし崩し的に制限が緩み、コピーの氾濫などで損害を受けることを懸念する。そのせめぎ合いは繰り返されてきた。

 

 国立国会図書館の資料電子化は以前から進められてきた。電子書籍元年と言われた2010年頃には、当時、館長に就任した『電子図書館』(岩波新書)の著書を持つ長尾真氏が、書籍の電子化を進めていたGoogleを仮想敵にして構想を推進した。

 

 その流れの中で、権利者との協議によって提供されるのは「入手困難な資料」で、図書館内での閲覧に限られるといった制限が決められた。それをこんどはウイルスというまたもや「黒船」が動かそうとしている。

【星野】