【行雲流水】文化通信2020年8月10日付

2020年8月10日

 某月某日

 『味の手帖』が発行する、来年の日めくり「味のカレンダー」がめでたく校了。毎年描き下ろす旬の食材や料理のイラストには180字ほどのコラムが添えられ、手前みそながら読み物としても面白い。原稿にある記述内容の確認や検証からは多くの学びがあり、鍛えられ、しかし、おなかがすく。

 本誌を含め、ひとつだけ決めているのは、私自身の反省を踏まえてのことだが、料理の批判はもちろん、「絶品」とか、「今までの〇〇はなんだったんだろう」という表現をしないこと。影響力のある筆者が、空前絶後の味と決めつけるのも、ほかの料理人が丹精を凝らした「今までの」料理を冒涜するのもいただけない。投票制といえる「食べログ」の点数も全くあてにならないと思っている。大体舌の肥えた中高年のおじさんおばさんはネットに投稿などしない(できない)のだから。

 某月某日

 週末、食随筆家の伊藤章良さんの行きつけ、経堂の「鮨処 喜楽」に夫婦4人で訪問。主人の太田達人さんは、三代目としてこの地で80年の暖簾を守ってきた。

 江戸庶民のファストフードであった寿司は、平成の世以降、都心ではもはや高級料理であるが、こちらは夜のお任せ1万円と、ミシュラン☆店としてはかなりリーズナブル。イワシとネギの海苔巻き、握りではアジ、赤貝、穴子など、きちんと仕事された江戸前のタネが印象的。銘酒の揃えもよく、大将の人柄が醸す空気感も心地いい。伊藤夫妻のすさまじい飲みっぷりにつられてこちらも酩酊。佳い店と出会った悦びに浸る。

 某月某日

 小社の暑気払いで根岸「香味屋」へ。店主の宮臺香惠さんとは旧知の間柄であるから、コロナ禍救済の意味もある。宮臺さん、少しはずれた立地で常連客主体であることが幸いし、閉店せず4割ほどの落ち込みに止まったが、国や都の補助はもらえなかったと。

 予約時に、同店自慢のビーフシチューとメンチカツに卵サンドを頼んでおいた。が、星野専務が卵を食べられないことをすっかり失念していた。周りから一切れずつ"芳志"が寄せられ奥方の立派なお土産に。大阪事務所の堀統括は東京の洋食を堪能。「お土産にコロナもって帰ったら叱られますわ」と関西人らしい。普段はコンビニめしという営業・野中君、「パンが美味しいですね」と。おいおい、そっちかいと苦笑する。

【文化通信社 社長 山口】