【ふるさと新聞だより】安房・南房総の伝統を担う――「房日新聞」

2020年7月6日

 6月17日から文化通信社内にオープンした「ふるさと新聞ライブラリー」には、日本の北から南まで、その土地土地の歴史や文化を映し出す、さまざまな特徴を持つ新聞が顔を揃えている。本欄では、これから各紙のユニークな横顔を紹介していくことにしたい。

 

 まず、第1弾は、千葉県館山市で発行されている「房日新聞」(房州日日新聞社発行)。本紙の論説欄とも言える、1面左上段に毎日掲載されるコラム「展望台」の5月のある日の一節から。

 

 筆者は小さな水田を所有していて、休みの日に農作業をしているOさん。長年愛用していた「手押し4条」という田植え機が壊れ、「乗用4条」というものに替えた。便利だが、田圃の隅は機械で植えられないので手作業で補植を行う。

 

 「……JR内房線がすぐそばを走り……晴れた空の下ジャージーをたくし上げ、はだしで泥に入る。……腰痛になるのは目に見えているので、15分ほどの作業で休憩を入れる。軽トラックの上にあおむけになり、5月の空を見上げる。ツバメが中空を横切り。近くの神社の森にはカラスが鳴く。……」。

 

 近くの高速道路を走るバスにも、内房線特急にも乗客の人影は少ない。隣の田圃で80歳過ぎと見える男性が、かくしゃくとした様子で田植えに励んでいるのを見て、Oさんはもうひと頑張りと補植に取り組む。

 

 「……新聞社の仕事とは違う田作業に汗を流し、心の滋養に専念する。テレビ報道はコロナ一辺倒で、バラエティ番組もアンコール放送と呼ばれる再編成が幅を利かせている。コロナ禍では致し方のないところだが、見えない何かが、人心をむしばんでいくような気がする」。

 

 「野に遺賢あり」などという古言を持ち出すのはオーバーかもしれないが、中央の政府やジャーナリズムがカネ太鼓で提唱する「ニューノーマル」が、地域紙の作り手により、とうの昔に自然体で体現されているのだ。

 

 「房日新聞」は南房総一帯を拠点に1948年創刊され、50~60年代の「地方紙戦国時代」を生き残り、今日2万400号を超える伝統ある地元紙である。ポストコロナの生き方のヒントが、こうした地域紙の中に隠されている。

 

【山岸修】

 


 

ふるさと新聞ライブラリー

 全国の地域紙約90紙のほか一部の地方紙、専門紙など約150紙が自由に閲覧できます。

 ▽所在地=東京都文京区湯島2―4―3 ソフィアお茶の水3階(文化通信社内スペース)

 ▽開設日=毎週月・水・金曜日(祝日、夏季休業日、年末年始除く)

 ▽開室時間=午前10時~12時30分/午後14時~16時30分

 ▽紹介サイト https://www.bunkanews.jp/library/

 ▽お問い合わせ=03(3812)7466