【行雲流水】文化通信2020年6月22日付

2020年6月22日

某月某日

 6年前にがんを患い亡くなられた東急時代の元上司の墓参り。仕事の縁がなくなっても、麻雀やゴルフ、夫人も交えた国内外の旅行にご一緒していた。リタイア後までなにかしらの理由をつけて集まる“爺様孝行”は東急の社風か、昭和時代のサラリーマン社会の情景か。雨のそぼ降る谷中霊園に孝行仲間12名が参集する。

 昼、東天紅で会食。5年前に隣地に新築した建物に移転し、界隈随一の美しい内外装に生まれ変わった。創業以来ラードを使わず植物性油脂で作られる料理は胃にもたれることなく優しい味わいで、化学調味料も無添加。眼下に不忍池、その先にスカイツリーを一望する眺めは以前のまま。故人を懐かしむ話に花が咲く。

某月某日

 終日「味の手帖 日めくりカレンダー」の原稿を書く。前日の余韻のまま拙文をしたためる。

 「タケシ少年、ご幼少のみぎりより肉まんといえば『東天紅』である。チンではなく必ず蒸し器でしっかり蒸かすことよろし。パン切り包丁が肉にあたったら5ミリだけ切れ込みを入れあちちあちちと手で割けば、もうもうと立ち上がる湯気。椎茸と筍などの野菜が豚肉から溶け出した脂を受け止め、その黄金のエキスは滴ることなくしっとりアツアツの皮に抱かれている。」ぐるり90センチのお腹が肉まんに思えてくる。

某月某日

 新名所、「虎ノ門横丁」が開業する。森ビルの依頼で全体プロデュースをしたのはDEAN&DELUCA やTODAY’S SPECIAL、GEORGE’S など食とデザインのセレクトショップを展開するウェルカムの横川正紀代表。店舗監修をマッキー牧元さんに依頼した。バードランドや鳥茂、赤坂璃宮など名店26店が軒を連ね、ちょいとつまんでハシゴ酒が楽しめる。牧元さん曰く、「2軒のうちはまだ階段、3軒回ってはじめてハシゴ」。

 まずは横川さんの店「酒食堂虎ノ門蒸留所」に。八丈島や新島でつくられた島焼酎と奥多摩の山間に湧く水をベースに店内併設の蒸留所で製造された、トーキョー・スピリッツをソーダ割で楽しむ。2軒目はモランボンのジョン・ピョンヨリ会長夫妻と、彼が手掛けた日本初業態の韓国居酒屋「ジャン」へ。野菜と牛ホルモンがたっぷり入ったトゥルチギなど、生マッコリが止まらない。

 しかしこの横丁、楽しすぎて棲みつきたくなってしまう。

【文化通信社 社長 山口】