【出版時評】海外で稼げるか

2020年1月20日

 悠々会の新年会で高井昌史会長が行ったあいさつは、なかなか刺激的だった。声の調子は淡々と原稿を読み上げる感じだったが、出版社と書店との直接取引や、出版社、取次、書店の再編が必要だと述べ、来場者で一杯の会場の空気が一瞬とまったようにも感じた。

 

 その後半は、出版社に海外展開を促す内容が続いた。『人生がときめく片づけの魔法』や『コンビニ人間』、ヨシタケシンスケ作品など成功した例を挙げ、中小出版社にも積極的にビジネスを拡大することを呼びかけた。

 

 確かに最近はマンガや小説だけではなく、児童書や実用書などが海外でヒットすることが目立ってきた。しかも、既に多くの日本の本が翻訳されている韓国や台湾、中国といった東アジア諸地域だけではなく、少ないとはいえ欧米での成功例も出ている。

 

 国内の市場が厳しい中、多くの出版社が海外に注目している。もちろん投資に見合った利益を得られる保証はないし、信頼できるエージェントや現地出版社などパートナーを見つけるのも難しい。そもそもこれまで版権輸出などのノウハウを社内に持っている中小出版社は少ない。

 

 高井会長は「出版社が経営を安定させることで、取次・書店を支援することをお願いしたい」と締めた。たしかにこの業界、まずは出版社が稼がないと始まらない。

【星野】