【ふるさとの味 おふくろの味】4代続く、自慢のかた焼き(JTBパブリッシング・青木洋高)

2019年12月6日

(JTBパブリッシング るるぶキッチンマネージャー・青木洋高)

 「かた焼きそば」。ラーメン、餃子、チャーハンに次ぐ中華屋さんの定番メニューと呼んでもいいだろう。その「かた焼きそば」と似て非なるものが、我が家のおふくろの味「かた焼き」である。社会に出て、大衆から(滅多にないけど)高級まで、いろんな中華屋さんで「かた焼きそば」を頼み続けてきたが、これだけは母の「かた焼き」にはかなわない。

 

 とはいっても、子どものころ、いつだってこの「かた焼き」が食べられるわけではなかった。テストや発表会など3人の子どもたちの誰かが、何かに打ち込んで帰ってきた日の夜に、食卓に並ぶことが多かったような気がするが、これは思い出の「美化」かもしれない。

 

 この「かた焼き」、なんといっても麺が特徴的だ。文字通り、ものすごく固い。餡となじむまでの時間は、麺との格闘を余儀なくされる。顎がフル稼働するこの感覚は、母の「かた焼き」ならではだ。

 

 それは、焼きそば用の麺ではなく、ラーメンの麺を使うからである。それもスーパーで売っている袋麺。名店の味のようなこだわりの強いタイプではいけない。もちろん平打ちの「タンメン」なんかをセレクトしたら台無しだ。縮れで細いラーメンの麺1玉を2つに分け、深い鍋で一気に揚げる。麺が濡れていると花火のように油が跳ねるから要注意だ。母にこの「かた焼き」を伝えた、母の母(祖母)の時代は、街の製麺所で麺を手に入れていたらしいが、その頃よりもおいしくできると聞いた。ラーメンの麺も、焼きそばの麺もどちらも「中華麺」の分類になるが、焼きそばの麺は蒸してあるため、この味わいは出せないのだ。

 

 餡には、大好きな海老がたっぷり入り、豚肉、きくらげ、ちくわ、もやし、青菜類が基本。おそらく残りは冷蔵庫の余剰状況により変化していたが、うずらの卵が入らない日は喜びも半減だった。餡のとろみはしっかり強め。成形せず、揚げた状態の盛り上がった麺の上に、この餡をかけたら完成だ。

 

 18歳で家を出てからは、たまに実家に帰ると、母の「かた焼き」が食べられることが楽しみだった。それなのに「何が食べたいの?」と聞かれても「なんでもいいよ」と言ってしまうクセは今でも治らない。いつの間にか、そんな「かた焼き」とも疎遠になっていたが、最近、再び「かた焼き」との接点が増えている。なんと3歳の娘のお気に入りメニューになっていたのだ。共働きの僕たち夫婦の代わりにときどき面倒を見てくれる母が食べさせていた。娘はこの逸品を「カリカリ」と呼んでいる。

 

 母が作り置いてくれた「かた焼き」を食べながら、ふと思い出した。「かた焼き」の翌日もその翌日も、母以外はハンバーグや唐揚げなど新しいおかずを当たり前のように食べている横で、母は残った「かた焼き」の残った餡をご飯にのせて一人食べていたことを。

 

 4代続く、自慢のおふくろの味。