【出版時評】つらい経験を通して見えた基盤整備の必要性

2019年11月5日

 実業之日本社は経済産業省の「ブロックチェーン技術を活用したコンテンツの流通に関するシステムの開発・実証支援」で「出版コンテンツの総合的な権利処理基盤の構築」の実証実験を行う。

 

 出版契約の内容や著作権情報をインターネットで公開し、決済の仕組みなども備え、第三者も利用できる環境を整えるという。そうすることで、出版社が著作者から預かった権利をしっかり管理していることを示すわけだ。

 

 岩野裕一社長は、4年前の株式譲渡の時、同社側で交渉をまとめる役割を担った。そのときの資産査定などを通して、従来の出版社による著作権管理では、金融機関などから過去の出版物(権利)を資産と評価されない可能性が高いことを痛感したという。

 

 電子書籍やPODによって品切れさせずに販売を継続することが容易になったが、実体として売れる状況になければ、やはり出版義務を果たしていることにはならない恐れがあるという。

 

 紙の出版物しかなかった時は、出版社の脅威になる競争相手がほとんどいなかったので、契約すら結ばずとも済んでいたが、いまは著者が自分で配信することすらできる。そんな時代の出版社として基盤を作る必要があるという考えに、資本移動というつらい経験を通して至ったのだという。

 

(星野)