【行雲流水】文化通信9月23日付

2019年9月24日

某月某日

 『味の手帖』巻頭対談に同席のため、銀座「南蛮銀圓亭」へ。ホストはウシオ電機の牛尾治朗会長、ゲストは牛尾さんが創設したシンクタンク「NIRA総合研究開発機構」の理事を務める、東京大学大学院法学政治学研究科教授の谷口正樹さん。米中問題から日韓情勢、次のアメリカ大統領選挙の見通しなど興味深い話が続く。

 

 国内では人口減少時代を迎えて社会保障の問題がますます深刻になり、3割↓2割↓1割とスライドしてきた医療費負担率は延長せざるを得ない状況がくるだろうと。現在75歳以上から1割負担となるが80歳以上、ゆくゆくは85歳以上に?

 

 谷口さんの奥方は慶應義塾大学大学院で政治学の准教授をされている、いわば同業者。時折、台所で2人ジャガイモを剥きながら、論文の中身や政治に対する見方などで侃々諤々議論が始まり、時に喧嘩になることあることも。「家では裃を脱いでノーガード、結構激しくやりあうんです(笑)」と。お二人の遺伝子を受け継ぐ小学生と中学生のお嬢さんたち、ふつうはパパ、ママもうやめてなのだろうが、フムフムとすでに議論から学びはじめているかもと、人格形成ならびに教育上の影響は如何なものかと想像してしまう。

 

某月某日

 食品業界経営者の勉強会に立教大学経営学部の高岡美佳教授を講師としてお招きする。元アイドルとして約2年間活動した後、青山学院大学、大学院を経て東京大学で博士号を取得した才色兼備にして珍しい経歴を持つ。共同印刷やSGホールディングス、モスフードサービスなどの社外取締役も務めている。

 

 高岡さんから、日本におけるフランチャイズシステムの課題と見通しについて話があるが、深刻な人手不足がFC加盟店の経営を直撃し、ひいてはFC本部の経営に重大な影響をもたらすという。求人市場で最も敬遠されているコンビニエンスストアでは、加盟店オーナーが疲弊、営業時間短縮の動きが拡がっている。東急時代にケンタッキーやミスドのFCビジネスを経験したが、フード系FCの場合、フードコストは触れないのでレーバーコストのコントロールが経営の要諦だった。

 

 書店経営にも通じるところだが、昨今の求人難にともなう賃金上昇の場面では、売り上げ増のための広告・販促による効果は不確実で継続性がなく、営業時間の短縮か価格に転嫁(値上げ)したいところだが、いずれも加盟店で決断できないところがFCビジネスのアキレス腱といえる。禁じ手であるロイヤリティ見直しを求める圧力が強まりそうだ。

 

某月某日

 半世紀ぶり?に両国国技館で大相撲九月場所を観戦する。こんなに狭かったかなと、オトナになって改めて升席の狭さを実感。大人四人では胡坐もかけず、正座はつらいが、力士がぶつかり合う音、場内の歓声とざわめきといった臨場感がいい。応援している炎鵬は惜しくも敗れたが、かつて"技のデパート"と言われた舞の海が、小錦や曙の懐に素早く潜り込み足技で倒す、"小よく大を制す"小こ兵ひょうの痛快相撲に快哉を上げたものだ。

 

 相撲に比べると、同じ国技である柔道は、豪快に一本でキメることが稀になってしまった。ポイント制とやらがチマチマしていて面白くない。外国人力士は歓迎だが、国際競技にならないことを切に願う次第である。

文化通信社 社長 山口