【出版時評】「海賊版」と「レ点営業」

2019年7月29日

 出版科学研究所が今年上半期の書籍・雑誌販売額を、インプレス総合研究所が2018年度の電子出版市場の数字をそれぞれ発表した。紙の出版物は、昨年大手出版社が値上げに踏み切ったコミックスを除いてマイナスとなったが、いずれの調査でも電子コミックの伸長が目を引く。


 インプレス総研の調査によると、電子コミックは12年度から二桁の伸びを示し、13年度が前年比26・7%、14年度が同39・3%、15年度が同24・7%、16年度が同26・6%と大きく伸長、17年度に14・1%増と鈍化したものの、18年度に再び3割近い伸びになった。


 昨年は4月に巨大サイト「漫画村」が閉鎖に追い込まれるなど、電子海賊版が社会問題になった。インプレス総研は、サイト閉鎖の影響とともに、各電子書店が大がかりな販促キャンペーンを展開したり、電子コミック自体の認知度が上がったことが市場拡大の要因になったと分析している。


 一方で、電子雑誌はマイナスに転じた。原因は家電量販店などでスマホを販売するときに行われていた「レ点営業」が規制されたこと。端末と抱き合わせで取っていた契約がなくなったことで、会員が減少しているのだ。


 需要を減らしかねない「海賊版」の騒動が、逆に需要を拡大し、需要もないのに成長していた市場が瓦解する。なんとも黎明期らしい話だ。

(星野渉)