【出版時評】地域の書店が読者を育てている

2019年7月15日

 文化通信フォーラムで、東京都内で小規模書店を営む今野英治さんに話していただいた。書店が減少し続ける厳しい環境ではあるが、5回転に近い商品回転率を維持し、年に数十万円を購入する常連顧客を持つ。印象的だったのは「書店が読者を育ている」という言葉だ。


 今野書店は、都心から少し離れたJR中央線西荻窪駅近く、住宅街を背景にした商店街の一角にある。1日平均の乗降客数は4万5000人余り。周辺の中央線駅では少ない方だ。ただ、作家や編集者、大学教員などが多いといわれ、かつては駅周辺に五つの書店が存在した。


 そんな立地だから書店が成り立つと思われがちだが、「今野さんのような品揃えをする書店があるから、そういうお客が集まり、読者が育っている」と、お客から指摘されたことが、今野さんにとって意外でもあり、喜びでもあったというのだ。


 確かに、身近にちょっと寄りたくなる魅力的な書店があれば、大型書店やネット書店を使う頻度は減るだろう。今野書店には、大型書店の検索機やネット書店で検索した用紙で客注するお客が結構いるという。


 そんな今野書店も50年の歴史の中で多額の借金を背負ったり、経営危機を乗り越えてきた。いまも経営が楽なわけではない。でも、こういう書店が地域で継続できる環境を整えることが、本の需要を育てることにつながる。

(星野渉)