【出版時評】海外を見て視野を広げる

2019年7月1日

 今年4月にマーケットイン型流通を目指す中期経営計画を始動したトーハンは、近藤敏貴社長と若手を中心とした視察団をドイツに派遣し、日本の取次にとっては赤字部門になっている書籍だけを扱い、書店の返品率が10%程度と言われる出版流通などを調査した。

 

 これまでもドイツの出版産業については、日本出版インフラセンターの調査などが報告されてきたが、"百聞は一見にしかず"。出版流通への問題意識を持った取次関係者、特に若者の目には新鮮に写ったようだ。

 

 ドイツの出版業界は書籍の流通だけで成立し、日本と同様に価格拘束(書籍価格拘束法)があり、書店は売れない本を返品する。その中で、取次は書店からの受注翌日に納品するサービスを行い、書籍市場は微減ないし横ばいを続けている。短い視察期間ではあるが、その理由や背景を探った。

 

 産業の構造や、その背景にある社会の体制も違う海外の状況を知ることが、直接役に立つとは限らない。しかし、常識だと思い込んできたこととは違う世界を見ると、視野が広がることは確かだ。

 

 とりわけ若いうちにそういう体験を積むことは貴重だ。広い視野で将来展望を持つ必要性は、この間の出版業界の劇的な変化に接して痛感する。厳しい時代、内向きにならずに可能性を追求して欲しい。

(星野渉)