【出版時評】〝紙〟を離れて見える未来

2019年6月3日

小学館の前期業績について、同社の山岸博副社長は広告の伸びを「反転攻勢」と表現した。紙雑誌の広告は依然として「厳しい」が、ウェブ広告などが大きく伸びている。しかも、一時的な現象ではなく、反転したという表現である。

講談社が発表した前期業績でも、広告収入が前期比8・8%増と6期ぶりに増収となったが、やはり紙雑誌の広告が同8・6%減だったのに対して、Web広告が同55・8%増と全体を押し上げた。

 

本紙5月1日付11面で紹介したが、小学館はここ数年、紙雑誌とウェブの広告を連動させる取り組みを進めてきた。特に女性誌を中心に、2年前に編集部ごとの組織を各誌ブランドのもとに再編したという。

 

電通が毎年発表する「日本の広告費」では、2018年からインターネット広告費(1兆7589億円)に「マスコミ4媒体由来のデジタル広告費」を新設したが、総額582億円のうち、新聞132億円、テレビ105億円、ラジオ8億円に対して雑誌は337億円と最大だった。

 

販売、広告とも激減した雑誌だが、ブランドが持つ価値は大きいということであろう。コミックに続いて、強力な"紙"のインフラで築き上げてきたコンテンツやブランドは、"紙"を離れることで、むしろ力を発揮することを示したといえる。

(星野渉)