
7月にオープンした「まちキャラ千葉駅前店」
ゲームやトレーディングカードなどホビー商品の卸売りを手がけるマッチングワールドが、リアル店舗「まちキャラ」の展開を加速している。首都圏を中心に5店舗を運営し、トーハンとの連携で書店内にも出店。商品販売にとどまらず、プラモデルの体験会やトレカ大会などを通じて新たな来店目的をつくり、本とホビーの相互送客にも取り組んでいる。
コロナ禍を機にリアル店舗運営
マッチングワールドは創業から25年以上、ゲームをはじめとするホビー商品の流通を担ってきた。在庫を「売りたい」企業と「買いたい」企業をつなぐ独自の「M―マッチングシステム」を中核に、現在はホビー商品の卸売り、EC、リアル店舗「まちキャラ」などに事業領域を広げている。
同社の特徴は、商品の流通だけでなくシステムの開発・運営からインターネット通販、リアル店舗まで自社でできること。「M―マッチングシステム」を通じて把握した市場の動きや商品の需要を、仕入れや店舗運営に生かす一方、通販や店舗で得た顧客の反応を商品調達に反映するなど、各事業を連動させている。
BtoBを中心に事業を展開してきた同社が、一般消費者との接点となるリアル店舗への進出を検討したきっかけはコロナ禍だった。オンライン販売やデータ配信が広がっていくなか、店舗で扱う商材として着目したのがデジタルに置き換わりにくい「非デジタル」のエンターテインメント商品。フィギュアやプラモデル、キャラクターグッズなどは、実物を所有すること自体に価値があると考えたからだ。そこで、2021年11月にホビーショップが集積する秋葉原にリアル店舗「まちキャラ」の1号店を開設した。

「まちキャラ」ロゴマーク
首都圏を中心に5店舗を展開
現在の「まちキャラ」の形は、当初から決まっていたわけではない。卸売事業ですでに幅広い商品を扱っていたことから、1号店では特定のカテゴリーに絞らず、調達可能な商品を投入。新品、中古、買い取りといった商品の扱い方も含め、実際の店頭で市場の反応を確かめながら方向性を探った。そして、約1年間の運営を経て、軸に据えたのがプラモデルとトレーディングカード(トレカ)。その後、それぞれに特化した店舗へと再編し、現在の「まちキャラ」へとつながっていった。
「まちキャラ」は現在、トレカやプラモデル、フィギュア、アニメグッズなどを扱う「まちのエンタメホビーショップ」を掲げ、首都圏を中心に5店舗を50~60坪程度の標準的な店舗規模として展開している。また、さいたま新都心で64坪の区画に出店したことを機に、イベントを実施できる対戦スペースを設けるなど、店舗の機能も広げてきた。

複数点購入するお客も多い
本とホビーで相互送客
店舗網を広げるなか、トーハンとの連携によって始まったのが書店での展開だ。今年3月に良文堂書店5階に「まちキャラ松戸店」を出店。7月には、三省堂書店カルチャーステーション千葉店内に「まちキャラ千葉駅前店」を開設した。
千葉駅前店は従来の千葉西口店を移転したもので、売場面積は約63坪。新品・中古トレカ、プラモデル、フィギュア、キャラクターグッズ、コレクション玩具などを揃え、32席のトレカ対戦スペースも設けている。
三省堂書店と「まちキャラ」の間は壁で仕切らず、書棚を使って緩やかにゾーニング。三省堂書店側では「まちキャラ」の売場に隣接して、ポケモンやガンダムなどの関連書籍を展開する。本を目的に訪れた人がホビー商品と出会い、ホビーを目的に訪れた人が本にも立ち寄る相互送客を狙った売場構成だ。
7月のオープン当日はガンプラの目玉商品が販売されたこともあり、早朝から500人以上が列をつくった。開店後には「まちキャラ」で買い物をした来店客がそのまま書店へ流れ、本を手に取る姿も多く見られた。売上や来店頻度などの具体的な効果を評価するには時間が必要としているが、今後は来店客数や購買動向に加え、新たにどのような客が訪れたのか、書店とホビー売場をどのように回遊しているのかなども見ていく。

隣接する三省堂書店の本棚
ホビー流通の経験を生かす
書店での展開では、同社が長年ホビー流通で培ってきた商品調達や販売の経験も生かしていく。出版流通では返品可能な商品が多いのに対して、「まちキャラ」が扱うホビー商品は基本的に買い切りとなる。同社では一定の在庫リスクを取りながら商品を仕入れ、販売する商売を長年手がけてきた。本やコミックと親和性があるが、買い切りのため書店では扱いにくかった商品の販売を同社が担うことで、書店で扱える商品の幅を広げられると考えている。
今後、書店の規模や立地、客層、地域性に応じて、売場の一部から始めることも想定する。トーハンとの連携を重視しながら、各店に応じた形を検討していく。
「体験」提供し来店機会創出
商品販売とともに重視するのが、来店する新たな目的をつくることだ。松戸店では親子で参加できるプラモデルの組み立て体験会を実施し、毎回満席になるなど人気を集めている。千葉駅前店でも対戦スペースを活用したカード大会やイベントなどを開催する。商品を購入するだけでなく、親子で一緒に作ったり、人と対戦するといった「体験」を提供することで、来店するきっかけを増やしていく。
さらに、人が集まって遊ぶリアル体験型のゲームにも力を入れる。サイコロを使ったポケモンのダイスホビーゲーム「プラコロ」など、サイコロをカスタマイズして対戦するリアルな遊びを子どもにも広げ、大会などの開催も想定する。

対戦スペースも配置している
首都圏10店舗体制へ
「まちキャラ」の店舗網も拡大する。今後は東京、千葉、埼玉、神奈川の1都3県を中心に出店を進め、1年半程度をめどに10店舗体制を目指す。現在は50~60坪程度を標準としているが、新たに出店する店舗のうち1店舗は、150~200坪規模の旗艦店とする構想で、候補地には町田エリアが挙がっている。
首都圏で10店舗を展開した後は、地方主要都市への進出も視野に入れる。店舗数が増えれば、大会やイベントを複数店舗で一斉に開催することも可能となり、企画の幅が広がることを期待している。

阿曽雅道氏
「まちキャラ」生みの親・阿曽雅道氏に聞く
「まちキャラ」の店舗運営で何を重視し、書店との取り組みにどのような可能性を見いだしているのか。リアル店舗の役割や今後の店舗展開とあわせて、阿曽雅道事業開発本部顧問に話を聞いた。
本とホビー、新たな出会いをつくる
―リアル店舗だからこそ提供できるものは何でしょうか。
便利な部分はデジタルに移っていくでしょうが、リアルで人と会って遊ぶことや、実物を手に取ることは残っていくと思います。プラモデルなら、買って終わりではなく、作ること自体に体験があります。カードなら人と対戦して遊べますし、中古カードであれば、状態を自分の目で見て納得して買うことができる。そういうところはリアル店舗だからこそ提供できるものですね。対戦スペースやイベントがあれば、人が集まって交流することもできます。オンラインでは得られない偶然の出会いや、その場で体験できる楽しさも、リアル店舗の価値だと考えています。
―店舗運営で特に重視していることは。
特別なことではなくて、基本的なことをきちんと積み重ねていくことです。例えば人気商品が入るなら、Xで入荷情報を出します。ただ、商品を1個だけ写して「入荷します」と伝えるのではなく、売場にどれくらい入っているのかが分かるような写真を出す。そうすれば、お客様も「ここなら並んでも買えるチャンスがあるかな」と判断できます。行列ができそうなら、どこに並んでいただくのか、どのように販売するのかも事前に案内します。
秋葉原では毎週のように100人、200人と並んでいただいた時期もありました。周囲に迷惑をかけず、トラブルなく販売するためには、スタッフもきちんと対応しなければいけません。負荷はかかりますが、丁寧に情報を出して、きちんと販売する。地道なことですけれども、それを続けていくしかない。どの店がどんな売り方をして、トラブルなく販売しているのかということも、どこかで伝わっていくと考えています。
―書店との取り組みに、どのような可能性を感じていますか。
書店さんとの取り組みには期待しています。千葉では三省堂書店さんの方でカードやプラモデルなどに関連する書籍を「まちキャラ」に隣接して置いていただいています。まずは、そういう売場づくりで本とホビーを行き来していただくことができます。できることは商品の売場づくりだけではありません。今後は読み聞かせや、当店のデュエルスペース(対戦専用席)を活用して、一緒にお客様に喜んでいただけるような企画もやっていきたいですね。
書店には書店のお客様がいて、私たちにはホビーを目的に来ていただくお客様がいます。お互いにこれまで接点のなかったお客様と出会えることにも期待しています。
―書店での展開は、大きな「まちキャラ」を出店する形が中心になりますか。
必ずしも大きな「まちキャラ」を入れる形だけではありません。売場の一部でもいいですし、イベントから始めることもできる。書店さんによって店舗の規模や立地、地域も違いますから、どこも同じ形にするということではありません。それぞれに合った形を考えていければいいですね。
当社は買い切りの商品を扱う商売を長くやっています。出版社さんのIPから生まれた商品など、本との相性はいいけれど、書店さんでは買い切りなので扱いにくかったものもある。そういう商品であれば、当社が担える部分もあると思います。
―店舗数を増やすことには、どのような狙いがありますか。
規模やシェアを持ちたいという話ではないんです。店ができることで何ができるのか、増やすことで何につながるのか。そこが大事です。
例えば首都圏の主要な場所に10店舗あって、それぞれにイベントができるスペースがあれば、メーカーさんが新しい商品や遊びを広げたいときに、一斉に企画を実施できます。スマホゲームではなく、人が集まって実際に遊ぶゲームを広げることも、私たちが目指している「まちのエンタメホビーショップ」のあり方です。そうした大会を10店舗で一斉にできるとなれば、メーカーさんに対しても「まちキャラならできる」と手を挙げられる。店舗を増やすことそのものではなく、店舗が増えることで何ができるようになるのかを大事にしていきたいですね。
