The Bunka News 2025年閲覧ランキング 1位「秀和システム 債務超過」、上位に続報2本 紀伊國屋書店グループ拡大も注目

2025年12月25日

 文化通信社はこのほど、2025年「The Bunka News」デジタル版でアクセス数の多かった記事を集計した(期間は1月1日~12月19日)。最も読まれたのは「秀和システム 債務超過で出版事業継続困難に 他社に譲渡へ」(25年7月1日配信)だった。

 

2025年年間アクセスランキングのサムネイル

 

 年間1位の同記事は、本紙が他紙に先がけ独自記事として配信。24年デジタル版閲覧ランキング1位記事を1日で超えるほど反響はすさまじかった。なお、取材班は初報時点で、事業承継先がトゥーヴァージンズであることもほぼ突きとめていた。新たな情報をつかむごとに3位「【続報】秀和システム 都内新興出版社に事業譲渡打診 社員「突然で戸惑い」(同2日配信)、6位「【続報】秀和システムの出版事業 トゥーヴァージンズが承継へ 負債・未払金承継せず」(同10日配信)と続けて詳報した。

 

 24年秋以降、秀和システム(当時)元代表取締役会長兼社長の上田智一氏が代表を務めていた船井電機をめぐり、金融機関を巻き込んだ不可解な資金移動について一般紙でも報道されていたことから業界内外で注目度が非常に高かった。当時旧秀和システムに在籍した社員の証言によると、7月1日午前に経営陣から「7月末で倒産する」と説明があったときに、社内ではほとんど前兆は見られなかったという。

 

 8月以降、元秀和システム社員らは部署を問わずトゥーヴァージングループに数十人単位で移籍した。移籍先を選ばなかった社員らも多く、ある編集者は実用書出版社に、ある要職を務めていた社員は定期雑誌購読を主軸とするネット書店に転職した。また、上田元会長兼社長は現在も出版関係者と直接、間接に連絡をとっているという。10月に債権者集会が初めて行われた。26年にも行われる見込み。

 

紀伊國屋書店 海外出店はFCで加速 高井会長は新著準備中

 

 4位は「紀伊國屋書店  京王書籍販売「啓文堂書店」社名と屋号を変更」(9月12日配信)。関連記事として「紀伊國屋書籍販売 紀伊國屋書店府中店が営業開始」(同29日配信)、「紀伊國屋書籍販売 11月に啓文堂書店3店の屋号変更」(11月12日配信)を配信した。

 

 年内には追加で9店舗(久我山店、桜上水店、下高井戸店、つつじヶ丘店、八幡山店、稲田堤店、三鷹店、高幡店、狛江店)の屋号が「紀伊國屋書店」に変更することも発表された。早ければ26年中には「啓文堂書店」はなくなる見込み。

 

 紀伊國屋書店は25年にグループとして「国内100店舗」を達成した。次の目標の「海外100店舗」はフランチャイズで出店を加速させていく。11月28日の決算説明で高井昌史会長は海外ではとくに財閥系企業からの出店引き合いが多いと話した。26年初頭にも南アジア圏での新規出店が発表される予定。今だないヨーロッパ圏での出店についても候補地はほぼ絞られているようだ。紀伊國屋書店創業100周年の27年までの新規出店は海外が中心となる。なお、ある経済系出版社は高井会長の新著を準備中。当初の刊行予定から1年以上遅れているが、26年中の発売を目論んでいる。

 

 書店の好事例としては5位「パン屋の本屋 地域住民の“顔が見える” 街の本屋の品揃え」(5月26日配信)、8位「今井書店松江本店 本格カフェで「すごせる書店」目指す 全面リニューアルで売上好調」(9月17日配信)がそれぞれ独立書店、老舗チェーンの取り組みとしてよく読まれた。

 

 本屋とパン屋を併設する珍しい形態の「パン屋の本屋」は16年に東京・西日暮里にオープン。12坪で在庫冊数4500冊と小規模ではあるが近藤裕子店長が目指すのは「地域の人が日常使いできる街の本屋」。経営はパン屋との併設で成り立っているとのことだが「書店×パン屋」の相乗効果も目にみえているようで、中庭を利用したおはなし会などのイベントを定期的に開催。本に登場するパンや飲料のサービスや、登場するキャラクターをパンで再現する「書店×パン屋」ならではの取り組みも人気だという。

 

 今井書店は今年5月、旗艦店舗である松江本店(旧グループセンター店)を全面リニューアルし、グランドオープンした。内装を一新するとともに、本格的なカフェを開設。「すごせる書店」をコンセプトに、来店客がくつろげる長時間滞在型の店舗となった。オープン以降、書店売上は前年比120~130%の伸びを実現し、カフェも大きく売上を伸ばすなど順調な船出になった。

 

取協・近藤会長「何もしなければ100%滅ぶ」

 

 10位は「取協 出版社に販売単価見直しを要望 政府の方針に危機感示す」(6月4日配信)。日本出版取次協会(取協)が出版配送に関する出版社向け説明会を開くのは24年に続いて2回目。

 

 販売単価について田仲幹弘出版流通改革委員長(トーハン)は「売上金額や業量減少により輸送単価はあがっているが、現状で輸送費自体が上昇しているわけではなく、むしろほぼ固定化している」としたうえで、「輸送費が固化定しているため、トップライン、つまり売上金額を上げさえすれば、業界全体の採算は改善される。売上金額は『販売単価×販売数』で算出されるため、出版社にはその販売単価を見直してほしいというのが今回の趣旨」と強調した。

 

 また、出版輸送費について、国土交通省が定めた「標準的な運賃」について触れ「この10年で出版輸送単価は2倍に上昇しているが、さらに政府が適正原価を定め、それを上回る運賃にすることを義務化しようとしている。これが法制化され、仮に高い原価が適正として設定されたら、取次業の継続は不可能」と厳しい現状を提示した。

 

 これに関連し、取協・近藤敏貴会長(トーハン)は、12月10日の出版販売年末懇親会で「今の時点で何もしなければ100%滅ぶ。トラック新法の基準が適用されれば運賃は2倍となる」としたうえで、書店の返品運賃にも影響を与えることから「このままでは地方書店の存続は不可能」と発言。直近ではトーハンが北海道のセイコーマート1100店舗超で雑誌返品の現地古紙化を2026年5月から開始することも発表した。出版輸送の危機は26年以降も増すことは間違いない。