出版倉庫の大村紙業はこのほど、拠点となる庄和流通センター(埼玉県春日部市)の第4期増築工事に着工し、これまで分散していた拠点の集約を進める。さらに作業マニュアルを整備し業務の品質を向上させるとともに、電子契約の導入や社内ネットワークの刷新によるDXも推進。将来に向けて体制を強化する。

第4期増築工事が始まった庄和流通センター
庄和流通センター第4期増築開始
これら取り組みについて、大村直紀社長は「生産性、クオリティー、労働環境を同時に向上させ、出版流通が厳しさを増す中で、これまで以上に出版社のバックヤードの受け皿として体制を整える」と述べる。
庄和流通センターの第4期増築工事では、駐車場として利用しているエリアに800坪2階建ての倉庫・ピッキングエリアと、800坪の新刊ストックヤード(立体自動倉庫)の計2400坪の施設を新設。
この増設に伴って、物量が多い主要取引先出版社の物流を中心に、物流拠点を分散している4拠点から庄和流通センターなどに集約し業務の効率化を図る。工事の完成は2年余り先の2027年3月を予定している。
同社は、1960年に東京都葛飾区で創業。79年に出版物流代行の商品管理業務を開始した。いまは総在庫冊数6800万冊、在庫点数16万点を管理する国内最大級の出版倉庫会社に成長した。
庄和流通センターは2003年に約1万5000坪の土地を取得してから施設の増設を続け、出版物の保管・出庫業務に加え、コールセンター業務やアマゾンとのEDI連携、書籍の小ロット製造を行うプリント・オンデマンド(POD)技術を活用したBOD(ブック・オンデマンド)事業までを1カ所で完結する同社最大の拠点として稼働してきた。
物流拠点集約で生産性を向上
新施設の開設で、かつて十数カ所に分かれていた物流拠点は、6拠点に集約される。
「大きな投資にはなるが、拠点を集約することで賃料、人件費、横持運賃などを削減し経営の効率化を図り、出版物の業量が減少し経費が高騰する環境にも対応できる体制を整える」と大村社長は狙いを説明する。
同社の受託出版社は400社以上に達しており、現在でも出版社からの引き合いは多いというが、いまは新施設建設のため取引先の拡大は抑えている。大村社長は「工事が完成すれば生産性も向上し、これを機にさらなる新規出版社の受け入れも可能になる」と見ている。
また、増設工事は27年3月に完成予定だが、物流拠点を集約するのに先立って、1年をかけて庄和流通センターと幸手流通センターのレイアウトと運用を見直す。
あえて完成から1年をかけることについて大村社長は、「これまで20年近く増設を続けてきた庄和流通センターと幸手流通センターのレイアウトや導線などを徹底的に見直して、生産性を上げるために基盤を固める」と説明する。
全作業をマニュアル化
合わせて、同社はすべての作業を網羅するマニュアルを整備し、流通品質の向上にも取り組んでいる。マニュアルはHTMLで作成し、マイクロソフトTeamsで全社員に共有する。各項目には現場の画像や作業の動画も組み込まれている。
トップページを立ち上げると、まず従業員が範とすべき同社の「会社理念」が立ち上がる。
会社理念
・従業員とその家族の生活向上
・お客様の繁栄と、ゆるぎない信頼関係の構築
・当社の永続的な繁栄と、業界・社会への貢献
【基本方針】
・正確な原理・原則や基本を学ぶこと
・正確で迅速な作業を徹底すること
【4つのルール】
1. 3Sの徹底(整理・整頓・清掃)
2. 明るい挨拶の励行(社内外)
3. 身だしなみのチェック(作業しやすい服装)
4. 構内安全衛生管理の徹底
(フォークリフト運転は有資格者のみ)
【安全管理と法令遵守】
・フォークリフト運転時は必ずヘルメット(青色)
を着用すること
・リーチ式は倉庫内専用、倉庫外はカウンター式
を使用すること
・安全ルール違反は重大事故につながるため、厳
重に注意すること
そのうえで、同社の業務全体を示す図と、商品の入荷から出荷、返品、改装、断裁、受注、棚卸という業務全般にわたる項目を詳細に説明する。マニュアル作成に携わった庄和流通センター・山本真央センター長は「いままで複数拠点で作業が属人化していた。拠点が違っても、担当者が変わっても同じ作業ができるように、業務を言語化することで標準化した」と説明する。

全業務が図で表示されるトップ画面
「入荷業務」では、「製本会社から書籍および付物・付録などが納品され、それらを所定の倉庫内に格納・保管する一連の業務。また、改装外注、オンデマンドなども入荷(入庫)として扱うことがある」として、取引先出版社に提供している「OS-WEB」からの入荷予定取得や、製本会社入荷、改装入庫、外注改装、BODまでの作業を解説。パレットへの積み方も判型ごとに図で示している。
「出荷業務」では、「出荷業務には大きく『取次出荷』と『直送出荷』の区別がある」として、出荷指示書(ピッキングリスト)の出力と確認、ピッキング作業、検品作業、直送出荷などの流れを示す。
「返品業務」では、庄和流通センター、古河返品センター、栗橋返品センター、尾崎返品センターそれぞれでの返品仕分け作業などを図解で説明。「改装業務」は、改装指示の確認や作業振り分け、付物取寄せの手順、そして手改装とトライオート(自動改装機)による改装などを示している。

実際の作業を動画で説明する(カバー折り機)
「断裁業務」では「この業務は、出版社から預かっている資産(書籍)を処分する重要な業務であり、誤断裁は弁済責任が発生する重大なリスクを伴うため、慎重かつ正確な対応が求められる」と注意を促し、具体的に断裁対象の分類と処理方法、指示の確認・指示書の出力・断裁実行など要点を解説する。
「受注・事務業務関連」では、出版社への注文を受け付ける「受注センター」の業務や、営業事務、返品伝票業務、庄和流通センターにある「コールセンター」の業務などを説明。
「棚卸」では「当社の倉庫に保管されている書籍等は、すべて出版社様の資産であり、棚卸によって実際の在庫数量(実在庫数)と帳簿上の数量(データ在庫数)が一致しているかを確認することが非常に重要」として、良本・返本の棚卸や良本・返本の実在庫数の集計・報告などを解説している。

業界用語や自社で使う専門用語をまとめた用語集も作成
同社では1年半ほどをかけて作業を可視化してマニュアルを作成した。
大村社長は「当社はここ20年ほどで業務を拡大してきたが、それぞれの拠点で違うやり方だったりした。効率が悪いということもあるが、お客様にご迷惑をおかけしてしまうこともあった。やはり責任を果たすために標準化したマニュアルを作る必要があった。時間はかかったが、途中入社の社員が見ても分かるように、動画や画像も多用して分かりやすい内容になった。これから社内で徹底させていく」と話す。
業務のDXを推進
庄和流通センターの第4期工事に合わせて、業務のDXも進めている。
まず、取引契約書を電子化する。電子契約書サービスの「サインタイム」を導入し、新規取引先の契約を電子化するとともに、既存取引先についても契約更新時に紙から電子への切り替えを働きかけている。
これまでは、契約締結に通常1〜2週間ほどかかっており、郵送の手間や収入印紙の費用、保管場所の確保などが負担となっていた。
電子化によって契約書の印刷、捺印、郵送、保管などの手間がなくなり、月平均約5000円かかっていた郵送代や印紙のコストが削減され「サインタイムのランニング費用はかかっているが、それを上回る導入メリットが得られている」と担当のシステム部・小森谷瑞宏氏。
また、テンプレートで運用するので、入力漏れやミスも防止できる。もちろん契約締結のスピードも早くなった。
「当社は取引先が多く、複数の拠点があるので、契約書の保管も大変だったが、電子化によって、ほかの営業所の契約状況もすぐに見られるので効率的になった」と小森谷氏は効果を説明する。
さらに、いままで伝票に転記していた在庫保管料などの請求書を、出版社ごとに自動出力するシステム構築にプロジェクトチームで取り組んでいる。紙で出力しているピッキングリストについても、タブレットを使って作業するペーパーレス化を進める。
さらに26年度の重要施策として、社内全体のネットワーク刷新にも取り組む。
現在は、「フレッツVPNワイド」による庄和流通センターを中心としたスター型ネットワークとなっているため、庄和流通センターで障害が発生した際のリスクが懸念される。
これを抜本的に見直し、ネットワークの高速化、主回線障害時のバックアップ回線による業務継続、堅牢なセキュリティ確保などを図る。また、現状の無線アクセスポイントは、物流業務でのハンディ端末使用を目的に倉庫内だけに設置しているが、事務所内にも設置することで、業務用パソコンの無線接続、モバイル機器の導入など業務刷新にも取り組んでいく。
同社は物流施設の集約とマニュアル作成、業務のDXを同時に進めることで、今後も出版流通を総合的に担う企業としての存立基盤を整える。【PR】
大村紙業株式会社
所在地:〒344-0113 埼玉県春日部市新宿新田14
電 話:048-718-0011㈹
URL:https://www.ohmurashigyo.com
創 業:1960年4月1日
代表者:大村直紀
資本金:4000万円
従業員:約600人
