「BOOK TRAIL」導入書店初年度115店舗に
PubteXが進める出版物にRFIDタグを装着して管理する書籍トレーサビリティシステム「BOOKTRAIL」は、12月16日時点で書店66店舗が導入し、今年度末(2026年3月末)には年度期初に掲げていた目標100店舗を超え、115店舗に達する見込みだ。
RFIDはユニークなシリアル番号が入ったICタグを1冊ずつに貼付し、入荷や販売、返品、棚卸時に読み取って管理することで、「いつ」「何が」「いくつ」「どこから」売れたのかなど精緻なデータを収集することができる。PubteXでは先行してコミックへのタグ貼付を進めており、導入書店ではすでにデータ分析によってコミック売り場での販売を効率化する事例が報告されている。書店店頭におけるDXの進展が期待される。
補助金・助成金活用を支援
書店への導入に際してPubteXは国の補助金・助成金の活用もサポート。24年度の先行導入で5店舗、25年度は6店舗で業務改善助成金(厚生労働省)を活用している。
7月からは経済産業省が「書店活性化プラン」に盛り込んだ「令和6年度補正 クリエイター・事業者支援事業費補助金」による実証に、朗月堂(山梨)、ブックエース(茨城)、谷島屋(静岡)、豊川堂(愛知)、文苑堂(富山)、柳正堂(山梨)、勝木書店(福井)、ヒバリヤ書店(大阪)、明屋書店(愛媛)、平惣(徳島)、メトロプラス(長崎)、八文字屋(山形)、うさぎや(栃木)、廣文館(広島)、啓文社(広島)、白石書店(福岡)、田中書店(宮崎)、オー・エンターテイメント(大阪)、久美堂(東京)の19店舗が参加。PubteXはこれからも書店の導入に際しては補助金・助成金活用の可能性を探っていく。
当初導入した書店からは、防犯ゲート設置による防犯効果の高さが報告されたが、導入書店が広がるとともに、在庫管理や販売傾向の分析などへの活用を重視する傾向も強まり、防犯ゲートを設置せずに導入する書店も増えている。
タグ貼付13社に キャンペーンへの活用も
一方、コミックへのRFIDタグ貼付は、同社の株主出版社である講談社、小学館、集英社に加え、KADOKAWA、一迅社、白泉社、光文社、竹書房、双葉社、日本文芸社、コアミックス、ホーム社の12社に拡大(26年年明け)。コミックへの貼付率は80%を目指して拡大中。また、文庫についても講談社(講談社文庫、講談社タイガ)に加え、日経BPが12月発売の「日経ビジネス人文庫」の2タイトルにタグを貼付。タグ貼付は13社となる。
出版社側での「BOOKTRAIL」活用方法は、発売以降の動きがリアルタイムに確認できるようになるため、従来のPOS販売データに加えて在庫データのトレンドをリアルに把握することが可能で、より迅速な重版判断につながるとともに、時間帯や曜日による売れ行きも把握できるため、SNSで告知するタイミングを見極めるといった利用も可能だ。
また、出版社がRFIDタグを使って購入者に特典を提供する取り組みがすでに始まっている。講談社は対象商品の購入者がRFIDタグに印字したQRを読み取ると抽選で図書カードなどを贈る「よみくじ」を展開。業界標準としての活用も想定している。集英社は応募者に抽選でデジタルカラープリントが当たるキャンペーンの実施や読者アンケートにも活用。こうした特典を得た購入者がSNSで拡散し、書店への送客に結び付く好循環も生まれているという。
さらに、今後は出版社が書店ごとの出荷数と返品数を算出し、データに基づいて書店ごとに販売奨励金を支給する仕組みや、フェア品の出荷時にタグのシリアル番号と伝票番号とをひもづけすることで、「委託販売」と「買切販売」を識別するといった利用方法も想定されている。
丸善ジュンク堂書店
コミック棚のデータ検証で成果
丸善ジュンク堂書店は、「BOOKTRAIL」をこれまでに5店舗で導入し、年度内に21店舗に拡大する。現在、導入店舗では展開場所や販売時間での売れ行きなどを分析し、効果的かつ効率的な販売方法を模索している。
「防犯よりも『効率販売』や『店舗内での在庫偏在の解消』に重きを置いている」と導入目的を説明するのは同社・伊藤健営業本部副本部長。

伊藤副本部長
「従来は、店内のどの場所で、何が、どのくらい売れているのかを検証する方法がなかった。商圏や消費者行動が変化する中で、これまでの経験則では対応できなくなっている可能性がある。これから経験豊富な従業員が減少し、経験則の精度自体が下がるリスクもある。そのため、早い段階で定量的な判断ができる仕組みを確立しておきたい」との考えからだ。
同社では丸善お茶の水店(2月)、ジュンク堂書店大泉学園店(10月)、ジュンク堂書店立川高島屋店(11月)、丸善日吉東急アベニュー店(同)、ジュンク堂書店吉祥寺店(12月)で導入が完了。今後、年度内にジュンク堂書店池袋本店など導入店は21店舗に達する予定だ。同社直営店は全国で約90店舗あるが、導入予定の21店舗でコミック売上の約7割をカバーするため、先行して運用・分析の知見を蓄積できると見ている。
丸善お茶の水店
有人・セルフレジで対応
同社店舗で最初に導入した丸善お茶の水店は、JR御茶ノ水駅前に立地するビルの1、2階342坪で営業。1階は新刊や文庫、新書など、2階に児童書、学参、コミック売り場を持つ。レジは1階の1カ所で、有人レジ3台とフルセルフレジ3台を運用している。
「BOOKTRAIL」の導入に伴い、有人レジはRFIDタグ付きの商品をカウンターに載せると読み取れるように、カウンターの下に読み取り装置を設置している。ここで読み取った冊数がレジ横にあるタブレットに表示され、レジ担当者が冊数を確認して「売上」ボタンをタップすることで売上が登録される。

レジカウンター内のタブレットで読取り冊数が表示されて売上登録する
一方、セルフレジは商品を載せるカウンターに、バーコードスキャナと隣接して読み取り装置を設置。また、人感センサーを設置して、客がレジ前から離れると自動的に売上を登録する仕組みにしている。

セルフレジは客側に人感センサーと読み取り機を設置
「トライアルでは二重読み取りなど誤読も発生したが、機器の位置や電波の強さなどを調整し、いまはピーク時でも問題なく対応できている」と同店店長の中西慶太東日本営業部エリアマネージャーは述べる。

中西店長
レジ作業のほか、入荷と返品時に箱詰めされた状態での検品も実施。中西店長は「箱の状態で検品できるのは楽。作業の工程は増えたが、担当者に負荷がかかっているとは認識していない。すべての商品にタグが付けば作業が相当楽になる」と手応えを話す。
エンド台と壁面棚の効果検証
タグ付き商品がコミックと一部文庫に限られているため、「BOOKTRAIL」のデータは実験的に計測している段階だが、「経験則で行っていたことが数値化されることでコミック棚の展開方法で顕著な効果が出ている」と中西店長。
同店ではコミック新刊を「エンド台」と、向かい合う「壁面棚」の両方で面展開しており、エンド台で4面以上展開しているビッグタイトルは、向かいの壁面棚でも多面展開してきた。しかし、「BOOKTRAIL」によって実際にどの棚から売れているのかを検証したところ、壁面棚からの売上は、少なければ全体の2%、多くても20%以下にとどまることが分かった。

多面展開するコミック新刊のエンド台

面陳タイトル数を増やすことができた壁面棚
「壁面棚は思っていたより少なかった。壁面棚での面陳を減らしても売上数は変わらないことが判明したため、ビッグタイトルの面陳を減らし、ほかの少数入荷タイトルの面出しを増やすことができた」と中西店長は対策について話す。
コミックは巻数を追うごとに販売数が減少する傾向があるため、毎回3桁以上仕入れるビッグタイトルについて、仕入れ・販売数を前年の新刊と対策後に発売された新刊で比較したところ、仕入れ数が78%だったのに対して販売数は89%となり、同チェーンの全店平均(仕入れ数90%、販売数75%)に比べて良好な結果になった。
中西店長は「多面展開のために過剰な仕入れをする必要がなくなり、仕入を抑えつつ売上を伸ばせた。データがなければ難しかった」と評価する。
そして中西店長は、タグ貼付商品と導入書店が広がることを期待する。「今夏のコミックフェアも分析したかったが、既刊にはタグが付いていなかったのでデータが取れなかった。早く多くの商品に付けてもらえると、より高度な分析ができるようになる。また、当店は自社チェーンで比較できる店舗が少ないので、ほかの書店チェーンで導入が進むことを期待している」。
売れる「場所」と「時間」を把握
同店での検証結果を受け、伊藤副本部長も「スリップ集計では販売場所と時間の特定が困難だったので、これらが可視化される効果は大きい。時間帯での売れ行きと場所が分かれば、補充業務でどこを埋めれば最も効率良く売上につながるかが判断できる」とデータ活用に期待を示す。
特にジャンルがあいまいな商品ほど効果が大きいとみる。「ビジネスでも実用に近かったり、コンピューター書に近いような商品は、どちらのジャンル棚に置けばより売れるのかが即座に分かれば助かる。さらに、最終的にどの棚に残せば数字が伸びるのかが分かれば無駄な返品も減る」。
また、今後は文庫などペーパーバックへの広がりが予定されているが、伊藤副本部長も「文庫や新書はいろいろなジャンルがあるので、詳細なデータがあれば、どこで併売したら効果的なのか分かる」とすでに活用方法を考えている。
同社では大型店や中型店などタイプの違う店舗での導入を進め、データの検証を重ねて活用方法を進化させていく予定だ。【PR】
書店RFIDショールームを開設
来場は予約制。詳細や問合せはホームページから。
予約はメールで企業名、担当者名、連絡先などを記載の上連絡。なお、申し込みは出版関係者、書店関係者に限定。
ショールーム概要(2025年11月より新オフィスに移転)
所在地:東京都港区虎ノ門1丁目10番5号 KDX虎ノ門一丁目ビル
来場対象:出版社/書店
開催時間:10:00~17:00(完全予約制)(土日祝日・休館)
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