前回はネット販売について書いたが今回はSNS活用法だ。両者はどちらか一方でも効果があるが双方に力を入れれば特に効果が期待できる。まず独立書店におけるSNS活用の全体感について。独立書店ではXを使用する店が多くInstagramやThreadsの利用はその次といった程度。Xに限ってフォロワー数を見ていくと有名店の本屋Titleが5万7000と群を抜いており本屋B&Bが3万9000でほかの店でも1万を超えれば多い方だった。書店業界では有名でもXのフォロワー数は8000程度という店も多く(これはX全体として見れば決して大きな数字ではない)、業界内での存在感とXの人気がイコールではないことが確認できる。
これを踏まえた上で今回はフォロワー数1万8000超のひるねこBOOKSと、5000超の透明書店、2100超の一乗寺BOOK APARTMENTに効果的だったX投稿について聞いた。ひるねこBOOKSは来年で10周年を迎える個人書店で自ら出版も行う有名店。透明書店は会計ソフトで有名なfreeeが手掛ける店で売上など経営状態を公開しているのが特徴だ。一乗寺BOOK APARTMENTは2024年に開業したばかりのシェア型書店で業界内では知らない人も多いだろうが応援したくなる投稿が多いと感じたので選んだ。
結果をまとめると3つある。丁寧な本の紹介からリーチ(1.9万いいね)を広げたひるねこBOOKS、透明書店の「本屋」と書かれた背丈より高い看板を導入したときの投稿(2573いいね)、そして、売上金額や冊数、その日に売れたタイトルを公開する営業報告だ。本の紹介はひるねこBOOKSのフォロワー数も相まって「絵本に関心の無かった層にまでリーチすることができました」と答えている(絵本は『クジラがしんだら』〈童心社〉)。2点目は高円寺に22年にオープンした蟹ブックスによる「看板小さすぎた?」(2.5万いいね)の投稿にも通じる、驚くような画像で耳目を集める手法である。3点目が独立書店ならではの現象で、売上金額までは公開しないまでも売れた本やスリップを公開している店はほかにもある。
今回お勧めしたいのは3点目だ。1点目はすでに実践している店も多いだろうし2点目はセンスやアイデアの面が大きい。しかし、3点目の営業報告は大型店こそ難しく、小さな店だからこそやりやすい、そして続ければ続けるほど効果の高い施策だからだ。透明書店に影響されて行っているという一乗寺BOOK APARTMENTは「初めて来たお客さんに聞くと『いつもSNSを見ています』という方が多いです。そのような方々は、いわゆる〝良いお客さん〟となる割合が多く初来店のときから〝サポーター〟的なふるまいをしていただけております。透明性を高めることによって店の〝信頼性〟も高まっているように思います。数字の公開は、業界の先輩方であるほかの本屋さんにもよく見ていただいており、マスコミの取材(開業1年でかなりたくさん受けました)にもつながっていると感じています」と答えている。小さな店こそファン作りが必要であることは間違いなく、またコストの少なさを考えれば営業報告はSNS活用において良い選択肢の一つだと言える。
それぞれの店には歴史も立場もあり、内情を見せることへの抵抗感は大きいかも知れないが、試みる価値はあると筆者は思う。
1985年生まれ。2010年から会社員と並行して書店をレポートする「本と私の世界」(現BOOKSHOP LOVER)を開設。15年に独立。著書『東京 わざわざ行きたい街の本屋さん』(G.B.)、『日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)など多数。