新潮文芸振興会・川端康成記念会 第38回三島由紀夫賞・山本周五郎賞・第49回川端康成文学賞贈呈式

2025年7月25日

 新潮文芸振興会は、第38回三島由紀夫賞に中西智佐乃「橘の家」(「新潮」2025年3月号)、第38回山本周五郎賞に新川帆立『女の国会』(幻冬舎)を選出。また、川端康成記念会は第49回川端康成文学賞に奥泉光「清心館小伝」(「新潮」2024年6月号掲載/『虚傳集』講談社刊収録)を選出。3賞の贈呈式が6月27日に開催された。

 

左から奥泉さん、新川さん、中西さん

 

 新潮文芸振興会の佐藤隆信理事長(新潮社代表取締役社長)は、受賞の2作は「登場人物の気持ちにうまく感情移入して読むことができた」とコメント。いずれも非常に豊かな作品だったとする。

 

新潮文芸振興会の佐藤理事長

 

 三島由紀夫賞の選考委員・川上未映子氏は「大阪弁を使って書くことは、ひとつのキャラクターを作品の中で立ち上げること。それが素晴らしい完成度と再現性の高さで息づいていた。そして登場人物の女性が無理やり性行為を強いられるシーンは、解像度の高い描写によって毎回違う行為、違う嫌悪、違う体における経験だと書きつけられた」とその完成度を評価した。

 

 これに対し、受賞者の中西さんは、デビュー以前に小説を書くことが苦しくなっていた時期を振り返り、「私は私のこの体を最後まで生かし続けるために書いている。苦しいからこそ書くのだと思った」とその心境を吐露。今後の精進を誓った。

 

 山本周五郎賞の選考委員・今野敏氏は「重苦しくなりがちな内容の複雑な話を、実に軽やかに駆け抜けたその手腕、手際に舌を巻いた。ジェンダーの問題は照れたり臆したり、あるいは過剰に持ち上げたり腫れ物に触るような扱いをしたりしがちだが、実にあっけらかんと扱った姿勢にも感銘を受けた」と評価した。

 

 受賞者の新川さんは、小説を書くうえでの迷いを吐露。「『みんなが読みたいもの』を書いてきたが、『私が読みたいもの』を書こうと方向転換した。今回の受賞は、その方向性が正しいと同業者である選考委員の皆さんに言っていただけたような気がする」と語った。

 

 川端康成文学賞の選考委員・辻原登氏は、本作が扱う“偽書”について渡辺幾次郎や芥川龍之介らに言及しつつ「実はわれわれの真実を宿らせるのに最もふさわしいものだと思う」と、フィクションだからこそ成しえる表現を称えた。

 

 受賞者の奥泉光さんは、“バナール(陳腐)主義”を標榜した作家デビュー当初から短編には手が出なかったと明かし、「比較的短い形で十分書けると気がついた。小説という領域の中で、まだまだ面白いこと、新しいこと、人を驚かせるようなこと、人に喜んでもらうことができる可能性を感じた」と述べた。

 

 最後に川端康成記念会の川端あかり代表理事は、次回は川端康成文学賞が50回の節目を迎えることに言及。川端が自身で購入した資料がどこにあるか分からず大佛次郎先生に借りたというエピソードを紹介。「過去の資料を管理・整備していくことで、日本文学の研究に寄与する」と、同会の主旨をあらためて訴えた。

 

川端康成記念会の川端代表理事