新潮文芸振興会「日本ファンタジーノベル大賞2025」 明里桜良さんが処女作で大賞を受賞

2025年7月9日

 新潮文芸振興会は7月1日、東京・千代田区の読売新聞本社レセプションルームで「日本ファンタジーノベル大賞2025」の贈呈式および祝賀パーティを開催した。大賞には明里桜良さんの『ひらりと天狗 — 神棲まう里の物語 — 』(「宝蔵山誌」を改題)が選ばれた。明里さんは初めて書いた作品で応募し、見事受賞となった。

 

左から選考委員の森見氏、受賞者の明里さん、選考委員の恩田氏、佐藤理事長

 

 式の冒頭で新潮文芸振興会の佐藤隆信理事長(新潮社社長)は、同賞の後援である読売新聞社や選考委員へ感謝の意を表し、大賞を受賞した明里さんへ「これから先もいろいろな面白い作品を期待している」と語った。

 

 続く表彰では、明里さんへ選考委員である恩田陸氏より花束が手渡された。選考委員を代表して森見登美彦氏は「ファンタジー小説なのに、その対極にある(公務員という)主人公の仕事や、『ひらりと天狗』というタイトルの通り、ヒラヒラと日常と非日常の間を行き来しているストーリーがとても面白い」と述べ、「クライマックスの非日常になってしまった世界で恐ろしい顔を見せる神様たちに対し、主人公が示す人間側の意地と矜持(きょうじ)の場面がすごく見事に書かれている」と講評を話した。

 

 受賞者のあいさつで明里さんは「小説家というのは強大な力を持った魔法使いだと思っている。そんな魔法使いに憧れて、ほうきにまたがって飛び跳ねているような子どもだった自分が、ついにその仲間に入れていただける日が来てしまった」と初作品が大賞を受賞した喜びに触れ、「ファンタジーというのは何も異世界で竜を倒すことだけにあらず、日常と地続きであり、その境目などないのだと体感している。ご期待に沿って精進していかねばと思う」と決意を示した。

 

受賞者あいさつをする明里さん

 

 祝賀パーティでは、新潮社出版部部長の新井久幸氏が乾杯のあいさつに立ち、受賞作を読むと「身の回りにも天狗や穴グマがいるのではないかと思えて、つい見てみたくなってしまう。それは取りも直さず作品の持つ力なのではないか。これからも世界をちょっと楽しく見せてくれるような作品をたくさん書いていただければ」とエールを送った。

 

乾杯のあいさつをする新井氏

 

 中締めでは新潮社執行役員の中瀬ゆかり氏が「一作目でこれだけの世界観とキャラクターを築き上げるのは恐るべしデビューだ」と感嘆し、主人公がタヌキや天狗とともに事件を解決していくストーリーに触れ、「最近はいろいろと物騒な世の中なので、現実でも本作に登場する素敵なキャラクターたちにぜひ活躍してもらいたい。これからも読後の世界にどっぷりと浸かれるような痛快な作品を送り出していってほしい」と結んだ。

 

あいさつする中瀬氏

 

 大賞作『ひらりと天狗 — 神棲まう里の物語 — 』は6月18日に新潮社から刊行された。また、会場では、同賞の最終候補作で5月に新潮社から刊行された、笹木一さんの『鬼にきんつば — 坊主と同心、幽世しらべ — 』も併せて紹介された。