今年創業100周年を迎えた萩原印刷は、書籍の印刷から小ロット印刷、多言語対応、電子書籍化、Web制作、動画制作などのサービスを総合的に担う「ワンストップ・サービス」を提供している。出版社が書籍に音声や動画などを付ける複合型書籍を刊行するときにも、素材の準備やスケジュール調整などがスムーズに進む。このサービスを活用する新星出版社の事例を紹介する。
新星出版社は実用書、ビジネス書を中心に年間110点ほどの書籍を刊行する。このうち語学分野は8割ほどに音声を付け、スポーツ・健康分野でも動画を付けるケースが増えている。「いまは音声がない語学書は難しくなっています。動画も健康、スポーツの分野で2割ほどには付けています」と編集部・富永雅弘氏は述べる。
こうした活字以外のコンテンツ添付は、書籍にダウンロード用QRコードを印字する方式が多い。
2022年に刊行した『動画で学べる 太極拳の教科書』(楊慧著)では、39点に及ぶ演舞動画を各ページにQRコードを印字して配信している。「本の内容によっては、ページごと、章ごとにQRコードを付けることもあります」(富永氏)。

『動画で学べる 太極拳の教科書』(左)と動画サイト
スケジュール調整など容易に
複合型書籍制作に「ワンストップ・サービス」を活用すると、「印刷(刊行)に合わせてサイトに載せる音声データや画面キャプチャを用意するなど、スケジュール調整が容易になります」と編集部・増田明良氏はそのメリットを説明する。
新星出版社と萩原印刷との付き合いは25年ほど前のホームページリニューアルから続く。萩原印刷の出版社向けWEBサイト構築・管理システム「NETPublishers」を活用することで、WordPressが主流になる以前に出版社が自前で書誌データなどを更新する体制を実現していた。
複合型書籍を作成する場合、新星出版社が外部委託などで作成した動画や音声を、萩原印刷が新星出版社のサイトがあるサーバーにダウンロードするサイトを構築し、同じドメインのURLをQRコード化して書籍に印刷する。この流れによってリンクなども「印刷工程で確認ができます」(増田氏)。
また、新星出版社は近年、児童書の刊行にも力を入れているが、23年に発売した『2つの意味の物語』(ささきかつお著)では、第2弾刊行に向けた販促策として、第1弾を読んだ読者が面白いと感じた言葉を応募できるランディングページを萩原印刷が作成。
この結果、230件以上の応募があり、5つの言葉が第2弾に採用された。「第1弾、第2弾とも重版することができ、ありがたい施策でした」と営業部・安川康成氏は評価する。
既刊書籍売り伸ばしのために、特典コンテンツPDFのダウンロードサイトを作り、帯に印刷したQRコードで提供するといった手法も、印刷と連動しているからこそ容易だ。

『サクッとわかる ビジネス教養 税金とお金』の購入者限定特別PRESENT(右)と帯に付けたダウンロード用QRコード
出版社ごとにEPUB化プログラム作成
また、萩原印刷で紙版を印刷する場合、合わせて電子書籍化を行うことも多い。「実用書はフィックス型が多いのですが、文字組版で手の込んだレイアウトの書籍は合わせて依頼することが多いです」と営業部・熊田徹也氏。
萩原印刷ではDTPとEPUB化を同じ部署で行っているため、校正時のダブルチェックなどによって修正の反映に漏れがないという。
萩原印刷で「ワンストップ・サービス」を担当するクロスメディア部・三田桂子氏は「当社ではDTPデータからEPUBデータを作成するプログラムを自社で開発していますが、各出版社様のルールに合わせてプログラムを作成しています」と印刷会社ならではの対応を説明する。
紙出版のコンテンツやIPを多様なメディアに展開することが必要とされる時代、長年にわたって書籍印刷を手掛けてきたノウハウを生かした同社のサービスは、出版社がビジネスを多様化していくことに貢献するだろう。

左から富永氏、熊田氏、安川氏
萩原印刷株式会社
創 業:1925年(大正14年)1月
代表者:萩原 誠
資本金:1000万円
従業員:60名
問い合わせ:電話03-3811-4203/
クロスメディア部共有メール:update@hg-prt.co.jp