株式会社光和コンピューターは電子書籍売上・印税管理を行うことができるSaaS形式システムとして、2022年6月から「PUBNAVI」のサービスを開始。一方で同社の出版社向け基幹システム「出版ERP」に組み込む電子書籍管理システムなども提供し、拡大を続ける電子出版市場において、業務の効率化に貢献している。
電子書籍システム「PUBNAVI」
「PUBNAVI」は、光和コンピューターが「出版ERP」システムの実績を生かして電子出版取次のメディアドゥと協同開発。2024年11月からは光和コンピューターが単独でサービスを提供している。
サービス内容は、大きく分けて「売上管理」「印税計算」「支払処理」の3つ。これら全てについて、クラウド上のシステムをブラウザから利用するSaaS形式だ。
サービス開発の契機は、電子出版市場が拡大してきた2017年頃。出版社に対する電子書店や電子取次からの月次売上報告データは、各社ごとに異なる形式で提供され、取り込むために形式を整える作業が発生。また、定価販売が多い紙書籍と違って、キャンペーン値引きや「話売り」、「読み放題」など同じ銘柄であっても形式や時期によって販売価格が異なることから集計が煩雑になる。
しかも、電子書籍はデータであるからこそ絶版や品切れがないため、1冊でも売れれば印税の支払いが発生する。また印税計算もアイテムごとに異なっている。特に専門書・学術書等の場合は共著者が数十人に上る場合や、コミックの場合は途中から著者が交代したり増加したりするなどして、印税比率もさまざま。
こうした複雑な状況に対応するため出版社では膨大な作業が発生しており、より効率的なシステムが求められたことから「PUBNAVI」の開発に至った。

「PUBNAVI」サービスの流れ
売上報告取り込み73販路に対応
「PUBNAVI」の売上管理で、電子書店や電子取次ごとに異なる形式の報告データの取り込みは2025年4月現在、電子取次や電子書店73販路を登録済み。未登録の場合も販路マスタを編集することで登録できる。売上データを構造的に蓄積することでレポートとして可視化し売上分析も可能にしている。
印税計算では、著者との契約情報からタイトル(商品)・支払先・掲載期間・費目等を算出。もちろん1話ごとの単品売りや読み放題、キャンペーン価格など、さまざまな形式に対応している。印税計算マスタへの登録による自動計算で、売上集計から著者に対する印税支払額が算出される。
支払処理では、印税支払と同時に編集・製作に係る他の支払い(原稿料やデザイン料等の経費・前払金の精算等も編集原価マスタで任意品目の記載可能)にも対応。支払通知書や支払調書、印税明細も各種テンプレートから、表示項目の最大化・最小化(書籍名と印税額だけも可)をはじめとしたニーズに合ったフォーマットでカスタマイズ。さらにPDFでのメール送信や郵送など送付方法も選択可能だ。
インターネットバンキングについては、全銀フォーマット対応であれば「PUBNAVI」から出力したデータをそのまま取り込み支払うこともできる。
その他、ID/パスワードによるアカウント認証、通信・データベースの暗号化やログによるアクセス追跡等のセキュリティ、メールでの問い合わせサポート(導入サポートにはWEB会議等で対応可能)といった形で必要十分なシステム設計がなされている。
「PUBNAVI」導入の利点
こうした「PUBNAVI」の導入によって、次のような利点が考えられる。
①複雑な電子書籍の売上管理にかかる負担を大幅に軽減することができる。システム未導入の場合、販路によってフォーマットが異なる売上報告を一旦Excelで加工し、自社システムに取り込んでいた企業が多い。しかし「PUBNAVI」では、Excelでの加工を経ずにそのまま取り込むことが可能となる。
②SaaS形式なので自社システムを導入する場合と比べて初期費用を各段に抑えることができ、コスト削減・業務効率化につながる。特に電子出版に新規参入する企業は多く、そうしたスタートアップ企業においては、月額利用によるサブスクリプションでこれらの業務を一括で処理できるメリットは大きい。導入前の無料トライアルもあるので、そこでの検討も可能だ。
なお、利用料は直近1年間の各販路からの入金額を基に算出される。1年毎の更新となり、料金テーブルに照らし合わせて入金額の増加あるいは減少に伴い利用料も増減する。最小額としては、年間入金額1000万円未満の場合で月額1万8000円。1年分(12カ月分から1カ月分を割引いた11カ月分)あるいは半年分(6カ月分)の前払い制。導入時には別途初期設定費用(5万円)を支払うこととなっている。
また維持管理のコスト面としては、例えば法改正等が行われた場合もシステムの運営・管理は光和コンピューターで行っているため、自社固有のシステムのような改修などは不要だ。機能の追加・改修等についても、光和コンピューター側でユーザーの要望を踏まえて順次対応している。
③従来であれば印刷・封入・郵送という手間がかかる支払通知書/支払明細等の発送業務についても、登録済のメールアドレスにPDFを送付することで簡略化・通信費等の経費削減を見込める。
④売上情報のデータ化によって詳細な分析を可能とし、より戦略的な販売計画の立案につながる。
さらに、「PUBNAVI」は一連の業務をカバーしたシステムではあるが、まず印税計算だけ導入してみるなど、自社の状況や現在使用しているシステムに合わせて一部分のみの導入も可能だ。これも、パートごとにExcel形式でデータを抽出・出力することが容易であるからこそ。データ処理や分析等をはじめ、さまざまな形で生かすことができるだろう。
出版社など53社の導入実績
サービス開始から3年弱を経た現在、導入企業は累計53社、さらに引き合いは130社を超える。
顧客から寄せられる声で多いのは、やはり「売上報告の取り込みが楽」というもの。これまで人手で計算を行っていたという顧客が多く、「何回計算しても同じ数字が出なかったが、今は使い勝手が良くて助かる」「1週間かかっていた作業が2~3日で済むようになった」「一度PUBNAVIを導入したら、これなしではもう無理」といった反応があるそうだ。
また、一度印税計算を始めると終わるまで他の作業ができなかったが、「PUBNAVI」は作業途中で一旦中断して他の作業に移行しても再開が容易で、マルチタスクで進行できることもメリットだという。
年に数回の機能強化
SaaS形式のため導入後も機能が追加されている。「こんな機能が欲しいと考えていると、知らない間に実装されていることも多い」というユーザーの声があるように、光和コンピューターは現在、年に数回のアップデートを実施している。今後は売上管理の機能を発展させてAIツールと連携し、さらに充実させた分析機能を搭載する、著者自身が「PUBNAVI」にログインして販売実績や支払明細をWEBで閲覧可能にする、といった機能追加のアイデアもあるそうだ。それらには賛否両論があるとしながらも、さまざまな発展を検討している。
基本的な販売管理機能としても、同社が提供する出版社向け基幹システム「出版ERP」による取次・直販両ルートでの受注や納品・返品、入出庫(在庫)、債権管理、各種帳票の管理、委託倉庫と連携して、総合的に拡張していくことも考えられるという。
光和コンピューターでは今後も電子出版に参入する企業は増えると見込んでおり、「目標としては、近い将来に100を超える企業への導入を目指したい。出版社の業務を幅広くサポートしていきたいと思います」(出版ソリューション事業部ソリューション営業部マネージャー・石橋泰邦氏)としている。
株式会社すばる舎
電子書籍システムと基幹システム(出版ERP)を連携
紙・電子の調書を一体化
株式会社すばる舎は早くから電子書籍刊行に着手し、2013年には光和コンピューターの電子書籍管理システムを導入した。電子書籍の印税計算を効率化するとともに、それ以前から利用してきた基幹システムと連携することで、紙書籍と電子書籍を合わせて支払調書を作成することなどを可能にしている。
同社はビジネス書や実用書などを中心に年間70点ほどの新刊を刊行。2019年に発売した永松茂久著『人は話し方が9割』(定価1650円)が累計150万部のロングセラーになっているのをはじめとして、2023年に発売した山本渉著『任せるコツ』(定価1650円)、 昨年4月に刊行した長倉顕太著『移動する人はうまくいく』(定価1650円)が、いずれも15万部に達するなど、ビジネスジャンルでの売れ筋が多い。
一方で、多チャンネルでの販路拡大を目指し、2021年にはBLノベルのレーベル「プレアデスプレス」を立ち上げた。中国、韓国、台湾の作家を中心にしたBL作品を翻訳して刊行。まずは電子書籍として連載、発売し、売れ行きの良い作品を単行本としても刊行。中国で人気作家である墨香銅臭氏による『人渣反派自救系統 クズ悪役の自己救済システム』(定価1980円)は電子で大ヒットし、紙書籍でも3万5000部のヒットとなっている。
ガラ携時代から電子コンテンツに着手
同社の電子書籍への取り組みは、2000年代初頭に遡る。当時のすばる舎のオーナーが、関連会社「すばる舎リンケージ」を立ち上げ、紙書籍の電子化に着手。同時に、電子書籍の内製化を始めた。
本格化したのはAmazonが日本版kindleのサービスを開始した2012年。まとまったコンテンツを投入するため、経済産業省の「緊デジ(コンテンツ緊急電子化事業)」も活用し、既刊書をメインに電子化を進めた。その後、EPUBによる電子化が軌道に乗ったところで、新刊も積極的に電子化するようになった。
現在は紙で刊行するものは原則として電子化する方針で、新刊については制作進行上可能なものは紙と電子をサイマル発売している。過去作品もほぼ電子化を完了。この結果、電子書籍の稼働点数は1200~1300点に達する。
2013年に電子書籍システム導入
電子書籍の売れ行きは「紙で売れるものは電子にも好影響を及ぼす」と販売責任者の互野啓氏。同社では、売れ行きが良い書籍を書店店頭で積極的に展開する販促手法をとっていて、その効果が電子書籍にも現れるという。そして売れ行きが伸びてランキング上位に入るとさらに露出が増えるという好循環になりやすい。このため「紙と電子書籍を分けて考えるのではなく、トータルでの売上最大化を目指す」と互野氏は説明する。

互野氏
システムについては、2006年に光和コンピューター「出版ERP」システムの「販売管理」、「印税計算」を導入したのを手始めに、2008年には「書店実売管理」システムも稼働した。電子書籍の発行・販売は当初、関連会社のすばる舎リンケージで行っており、電子書籍発行を本格化させた2013年には同社が光和コンピューターの「電子書籍管理・支払管理」システムの利用を開始した。
同社の電子書籍取引先は、メディアドゥとモバイルブック・ジェーピーの取次2社と、Amazon kindle、楽天Kobo、パピレス、Google Playブックスの各ストア。システムは、こうした取引先ごとにフォーマットが違う販売レポートを取り込んで集計することや、「話売り」「待てば0円」「割り引き」など多様な価格設定に対応した印税算出などを行っている。
紙と電子のシステムを連携
2020年にすばる舎とすばる舎リンケージが合併。これに伴って電子書籍の事業とシステムはすばる舎に統合された。ただ、電子書籍システムは「出版ERP」とは別に運用し、電子書籍システムで集計した結果を「出版ERP」に取り込んでいる。
それでも、合併時に紙版と電子版それぞれで運用していた著者マスタを統合できたことで、支払調書などは紙版と電子版の印税を同じ帳票にまとめることができている。「電子書籍が1200~1300点になり、それぞれに著者がいる上に、編集プロダクションやライターなども紐づいているので、いまはシステム無しに集計することは考えられません」と互野氏は述べる。
今後は「PUBNAVI」で実現されている著者への売上報告をメールで送信する機能などの拡張を希望している。
株式会社光和コンピューター
代表者:寺川光男
所在地:〒101-0032 東京都千代田区岩本町3-1-2 岩本町東洋ビル5階
【問い合わせ先】メール:kowa@kowa-com.co.jp
電話:03-3865-1981(担当:石橋、若井)