【連載】「コレが〝ウリ〟です ~独立系書店の創意工夫~」① 今野書店(東京・杉並区) 地下スペース活用で新たな挑戦

2024年1月22日

 書店にとって厳しい状況が続くなか、小さいながらも経営を存続している街の書店には、独自の創意工夫が見られる。そんな独立系書店に、生き延びるための〝ウリ〟やノウハウについて話を聞く新連載をスタートする。

 

今野書店外観。西荻窪駅前とあって人通りも多い。店内は平日の朝から賑わう

 

 西荻窪唯一の新刊書店として賑わいを見せる今野書店は、1968年に上野で創業。73年に西荻窪へ移転し再スタートを切ってから、昨年50周年を迎えた。


 2011年から駅徒歩1分、ビルの1階に賃貸で60坪の店舗を構え、在庫数は5万5,000冊、5,700万円。店舗販売で新刊書籍、雑誌を中心に展開。外商で中高10校の教科書を扱う。二代目として今野英治さんが代表取締役を務める。従業員は正社員5人、アルバイト・パート7人。独自の視点による選書と豊富な品揃えが評判の、地域住民にとってなくてはならない書店であり、現店舗移転以来、好調を維持してきた。

 

特にノンフィクションの新刊台は、ほかの書店では見られないオリジナリティあふれる選書で評判を呼んでいる

 

順調だった経営がコロナ禍で一変


 状況が大きく変わったのは20年、新型コロナウイルス感染症の流行による。ステイホームで書籍に娯楽を求める人々が増え、売上は一時的に急上昇した。しかし2年ほど経ち、コロナ禍が明ける頃には、コロナ禍以前よりも売上が落ちるようになっていた。「人々の消費が生活必需品へシフトしたように思う」と今野さんは振り返る。

 

 分析すると、同ビル地下に構えていたコミック店の売れ行きが特に思わしくなかった。13年にオープンし、経営が軌道に乗るまで1年ほど売上は低迷していたものの、その後は順調に推移してきたコミック専門売場だが、オープン時よりも悪い状況になっていた。スタッフを最低2人は常駐させる必要があり、人件費もかさむ。また、その頃には電子コミック市場が台頭、紙コミック市場の売上を上回るようになっていた。22年、時代の流れを読み、コミック店を閉店することに決めた。

 

数々のアイデアで地下に活路

 

 それに伴い地下階の賃貸契約を解約することも考えたが、スタッフの休憩場所や事務所も構えており、それは今まで通り必要になる。地下の賃貸は続け、空いたスペースをどう有効活用するかが課題となった。「1階の売場に陳列するコミックを1巻と最終巻のみにし、残りを地下にストックしてはどうか」とスタッフから案が上がった。店頭に並べないものは、お客さんの問い合わせに応じて提供する。これで閉店によって、コミックの品揃えが極端に少なくなることも回避できた。


 さらに、店舗から少し離れたJR高架下に教科書用の倉庫を借りカルチャースクールも運営していたが、JRの再開発に伴い立ち退きをすることに。倉庫だけを別の場所で安く借り、カルチャースクールを書店の地下に移すことにした。「コミック店の閉店と、倉庫の立ち退きの話が偶然重なった。思い切りが必要だったが、これは流れに乗るしかないと思った」と今野さんは言う。また、著者によるトークイベント等を開催するイベントスペースの運用も開始することに。これで地下の体制が整った。

 

地下のイベントスペース。イベントの集客はX(旧Twitter)での告知がメイン。著者に告知を依頼すると反応が良い


 イベントは30人の収容スペースで週1回開催、配信も500人まで行う。著者には固定報酬に加え、売上の30~40%を支払う形だ。申し込みについてはPeatixを活用し、集客についても同サイトで分析を重ねる。内容は出版社からの持ち込みに加え、スタッフが企画を立ち上げ出版社と交渉することもある。出版社の社員との関係を、日頃から大切にしているからこそできることだ。「お客様と同じように版元さんも大事にしようという、僕が以前から大切にしてきた姿勢がスタッフにも根付いている」と今野さんは話す。


 カルチャースクールの運営は未だにコロナ禍の影響が残っているものの、イベントスペースの利益は順調に伸びている。地下での新しいチャレンジは始まったばかりだ。【市川真千子】

 

□所在地:東京都杉並区西荻北3-1-8
□仕入れ:楽天ブックスネットワーク、NET21

 

 

今野英治さん

代表取締役。大学卒業後、紀伊國屋書店に入社。2年間修業した後、埼玉県の須原屋が運営していた全寮制の書店学校に入学、書店経営の理念とノウハウを学ぶ。1987年から今野書店へ。中小書店が協業し、共同で一括仕入れを行う有限会社NET21の代表取締役社長も務める。