「こども本の森 中之島」開館3周年 安藤忠雄氏の理念を具現化「子どもの創造力育む」

2023年8月9日

 

 

 

 

好奇心育む「物語の聖地」

 

 

 世界的建築家で知られる安藤忠雄氏が設計、建設費も自身で捻出し、大阪市に寄贈した文化施設「こども本の森 中之島」が今年7月で開館から3周年を迎えた。


 子どもはもとより、遠足に社会見学、さらに、観光客、各種団体や教育関係者らによる視察まで多くの人が訪れており、昨年度はコロナ禍にも関わらず12万人以上が来館(大阪市経済戦略局発表)するなど、大阪の新しい文化拠点として認知度の高まりを見せている。


 安藤氏は中之島と同様の構想を岩手県遠野市と兵庫県神戸市でも進め、一昨年、古民家を活用した「こども本の森 遠野」、昨年は「こども本の森 神戸」を開設した。本特集では「こども本の森 中之島」について同館・伊藤真由美館長に取材し、施設の概要を写真で紹介する。【堀雅視】

 

 

3周年を迎えた「こども本の森 中之島」

 

 

自治体を動かすビッグプロジェクト

 

 

 2017年、安藤氏から大阪市に対し、「本や芸術文化を通じて、子どもたちが豊かな創造力を育む施設を中之島公園内に整備したい。施設は大阪市に寄贈して運営費は賛同者を募り、市に集まる寄付金を活用したい」と申し出があった。

 

 申し出を受けた大阪市は市議会で、共同企業体(JV)が施設の運営・管理を行い、運営費は寄付金を活用することを決めた。公募で選ばれた指定管理者は、図書館流通センター(TRC)、長谷工コミュニティ、BACH(バッハ)の3社。

 

 選書を担うバッハは、ブックディレクター・幅允孝氏が代表を務め、国内にとどまらず、世界の図書館や施設の図書コーディネートを手掛ける会社。建物の修繕など管理面は長谷工コミュニティが受け持つ。

 

 

都会のオアシスに新しい文化拠点

 

 

 「こども本の森 中之島」は、鉄筋コンクリート3階建、延床面積は815㎡。堂島川と土佐堀川の間にある中之島公園内に、安藤氏設計のコンクリート打ち放し、カーブ状の建物が存在感を示している。同館の蔵書は現在、2万冊強で今後も増加していくという。


 中之島公園は、大阪市役所や多くの企業が建ち並ぶ大阪屈指のビジネス街に、豊富な緑、重要文化財の大阪市中央公会堂や東洋陶磁美術館など文化・芸術的施設を配した公園。都会のオアシス、市民らの憩いのスポットとして知られる。「こども本の森 中之島」整備に伴い、現在は「歩行者空間の創出」を目的に、歩道を拡張して、より公園利用者に優しい街づくりが進められている。


 コロナ禍の影響を受け、予定より4カ月遅れの20年7月に開館。従来の図書館とはコンセプトが異なり、「文化施設」の位置づけで、市の管轄も図書館に多い教育委員会ではなく、大阪市経済戦略局が所管する。

 

 

貸出不可持ち出しOK

 

 

 ジャンル分けも一般的な分類とは一線を画し、「自然とあそぼう」、「体を動かす」、「動物が好きな人へ」、「まいにち」、「食べる」、「大阪→日本→世界」、「きれいなもの」、「ものがたりと言葉」、「未来はどうなる?」、「将来について考える」、「生きること/死ぬこと」、「こどもの近くにいる人へ」といった独自に考えられた12のテーマに沿って作品を並べている。


 本の貸し出しはできないが、当日の閉館時間までに返却すれば「持ち出し」が可。天気が良い日は公園に持ち出せることから、今年になって開始したシートを貸し出すBook&Picnic「ブクニック」が人気を博している。また、館内は一般的な図書館のように「私語厳禁」ではなく会話が自由なところも魅力のひとつ。

 

 

3フロアすべて吹き抜け/壁一面に本棚

迫力満点の大階段 階段での座り読みもOK / イベントの観客席としても使われる

「きれいなもの」コーナーでは堂島川を眺めながら優雅に読書 / アート、宝石など「きれい」を集めた

「生きること/死ぬこと」コーナーも円形空間  本棚からメッセージが浮かび出す

謎の円筒状スペース / 落ち着いた空間でアイデアが浮かぶかも / 立体的な映像作品も飛び出す

赤ちゃん用スペース / ハイハイ歩きOK  / 引き出しを開けると1冊の素敵な絵本が登場

 

 

大人になっても来館したくなる場所に

 

 

 伊藤真由美館長は「すぐに答えがわかるスマートフォンばかり触っている子どもが増え、読書離れが進むなか、安藤先生が『多様な本を手に取って、創造力や好奇心を育んでほしい』という思いでつくった、本と出合うための施設。気に入った本が見つかればどこで読んでも、親子で物語について会話するのも大歓迎」とコンセプトを説明。「安藤建築の空間に、幅さんチームの選書が融合することで、子どもたちが本に興味を持ちやすい配架ができている、すごく考えられた施設。安藤先生も『物語の聖地』と称している」と魅力を紹介する。


 コロナ禍の中で開館を迎えたことから、時間制限(90分)、上限150人の完全入れ替え制でスタートしたが、伊藤館長は「子どもの集中力が持続する時間を考えて、コロナ収束後も90分制を継続しようと考えている」という。

 

 

「あの人の本棚」コーナーには名誉館長の山中伸弥さん(ノーベル生理学・医学賞受賞)が子どもの頃に読んだ本を紹介

施設運営は寄付金で/入口設置の募金箱ほか、法人・個人と幅広く募る/詳しくは大阪市のホームページに

 

 

子どもを子ども扱いしない選書

 

 

 バッハの選書について聞くと、「当館には『子どもを子ども扱いしない選書』という裏テーマがある。絵本などの裏表紙に対象年齢が記載されているけれど、子どもが何に興味を持つか、どんな本を読みたいのかを大人が理解するのは難しい。子どもはある意味天才。こちらが『〇歳だからこの本』と差し出すのではなく、自分で見出だしてほしい」とし、「その理念に沿って幅さんは多様なジャンル、魅力的な作品を揃えている」と太鼓判を押す。


 今後に向けて、「開館からまだ3年のなか、多くの人に来館いただき感謝している」としながらも、「はじめだけ珍しさで盛り上がるのではなく、館の魅力を維持していく。そして、選書方法や楽しいイベントをどんどん打ち出し、もっと喜ばれる施設にしていくことが私たちスタッフの役目。子どもたちが大人になっても来館したくなる『本の森』になるよう未来につないでいきたい」と語っていた。

 

オリジナルグッズは観光客にも人気

 

こども本の森 中之島
□住  所=大阪市北区中之島1―1―28
□開館時間=9時30分~17時
□休 館 日=毎月曜(月曜が祝日の場合は翌平日)・蔵書整理
       期間・年末年始
□入館無料
□https://kodomohonnomori.osaka/