【SHINBUNYA~新聞屋の新分野~】新潟日報社 「にいがた鮭プロジェクト」で新潟の魅力を発信 県外に暮らす学生や社会人とのつながりを強固に

2023年7月25日

 新潟日報社は、創業145周年となる2022年、県外に進学・就職した若者を支援することを目的とした「にいがた鮭プロジェクト」をスタートした。これは、首都圏などへの転出超過が長年続く新潟の状況を打開するための産学官連携による施策だ。事務局を運営する統合推進センターの荒井雅美さんと執行役員総合プロデュース室長の大塚清一郎さんに話を聞いた。【杉江しの】

 

プロジェクトのロゴマーク。新潟県と鮭の姿をハートのモチーフでデザインし、地元愛が詰まっていることを表現している

 

県外へ進学した若者に新潟の魅力を発信

 

にいがた鮭プロジェクト」(以下鮭プロ)は、情報発信、場づくり、ネットワーク形成の3つを柱に展開する新規事業だ。新潟県が共催に名を連ね、県内外の大学や高校、企業との連携で推進している。

 

 昨年度の進学先調査によると、県外へ進学した学生は59.1%に上る(新潟県調べ)。進学を機に県外へ出ると、なかなか新潟へは戻らないという現状を変えるべく、新潟日報社は鮭プロを立ち上げた。

 

 鮭プロの基となったのは、グループ会社を含む全社員による新事業のアイデア公募で選ばれた荒井さんの案。当時、企画総務局で新卒採用を担当していた荒井さんが県外に進学している学生と話すと、「地元を離れると新潟の情報が入ってこない」といった嘆きや、県外の人に新潟の魅力を伝えたいが、「じつは新潟のことをよく知らなかった」などの意見を耳にした。

 

 荒井さんは、「地元の新聞社として、新潟の情報を若い世代にしっかり届けていかないと、若い人が県外に流出する状況を変えられない」と危惧し、新潟と県外に暮らす若者をつなぐ仕組みづくりの必要性を感じていた。

 

学生・学校・企業の協力で事業を推進

 

 21年4月、30~40代の社員を中心とした7人の準備チームで骨子をつくりはじめ、22年春に鮭プロをスタート。現在は、本業との兼務である事務局メンバーの5人で運営している。

 

 まず、鮭プロでは、「鮭プロメンバー」と呼ばれる会員(大学院、大学、短大、専門学校の学生)を募集した。高校の協力で卒業前の2月に3年生へ告知し、メンバーは現在2,580人(7月20日時点)、目標数は3,000人としている。約9割が県外からの登録。学校を卒業しても継続でき、社会人になったメンバーも含まれている。

 

 また、協賛企業の「鮭プロサポーターズ」も募集。1口22,000円で、22年度は70社、23年度は80社(7月20日現在)が登録している。さらに、県内30市町村のすべてがサポーターとして参加し、そのうち22年度は11市町村、23年度は13市町村が有料会員となっている。有料会員になると、イベントへの参加や情報発信ができる。

 

 鮭プロの運営メンバーとして、県内10校41人の学生による「チームいくらちゃん」を結成(22年度/23年度は10校31人)。メンバーは、鮭プロ公式サイトに掲載される飲食店や企業、イベントなどの取材・執筆から、SNSの発信、イベントの企画・運営まで担っている。

 

 ほかにも、鮭プロの取り組みはさまざまある。昨年は東京の中央大や神奈川大で、新潟で働く若手社会人と学生の交流会「にいがたCafe」を4回開催した。11月3日には、新潟市内で「にいがた鮭プロジェクトフェスティバル」を開催し、3,000人を超える来場者を集めた。今年も同様の取り組みが続々実施・予定されている。

 

 鮭プロメンバーには抽選で、片道の帰省交通費をプレゼントしている。22年度に実施した高速バスの抽選には、定員200人のところ534人が応募。23年度は、バスに268人、新幹線に290人が応募、合計558人(7月20日現在)ですでに22年度の応募数を超えている。

 

 また、お米など新潟の食品を贈る「にいがたふるさと応援便」のプレゼント抽選を行った(定員500人・第1回応募814人/第2回応募1,079人)。こちらはいずれも半数以上が保護者による応募で、イベントの認知経路も「保護者からの紹介」が上位を占めているため、保護者への広報も新聞本紙で積極的に行っている。

 

鮭プロに込めた思い

 

 ただ、同プロジェクトは、決して「UIターン事業や就職キャンペーンではない」と荒井さん。プロジェクト名にある“鮭”と一緒で、県外という大海原に出た若者に、彼らのタイミングでいずれ新潟へ戻ってもらえればと考えている。

 

 大塚さんによると、「鮭は江戸時代から新潟で増殖され、新潟県民にとって非常に身近な存在」であり、コンテスト応募時に荒井さんがすでに名付けていた「にいがた鮭プロジェクト」は県民にとって“刺さる”ネーミングであることも審査で高評価を得たという。

 

 プロジェクトのキャッチコピー「にいがたは、いつでもキミのミカタ」「若者よ、大海を巡れ」といった言葉にも、事務局の熱いメッセージが込められている。荒井さんは「県外で経験を積んで、3年でも5年でも10年でもいいので、やっぱり新潟がいいと思ってもらえるとうれしい」と話し、大塚さんも「“新潟LOVE”の若者を増やしたい」と語る。

 

 その思いにこたえるように、鮭プロメンバーからは、「新潟の魅力を全国に発信してください」「新潟を私たちが帰ってきたくなるような場所にして」「将来的には地元に帰りたい」といった声が寄せられている。

 

 事業の採算について具体的な数字は言えないとしつつ、「黒字です」と大塚さんは話す。鮭プロを行っていることによって自治体等から委託事業の依頼が増えており、東京から新潟への企業見学バスツアーや高校でのキャリア教育、セミナーなども事業の収入となっている。今後、鮭プロメンバーとサポーターズを増やすことにより、「さらに収益を上げていきたい」と話した。

 

執行役員総合プロデュース室長の大塚さん