東経・日経の「業界地図」好調 コロナ禍で求められる確かな情報 過去最多部数に向けプロモーション強化

2021年12月10日

 東洋経済新報社と日経BPが刊行する「業界地図」が好調だ。東洋経済新報社『会社四季報 業界地図2022年版』は過去最多を更新する勢いだ。日経BP『日経業界地図2022年版』も、これまで最多の10万部を目標に大規模プロモーションを展開する。

 

 ネットで企業情報が公開される時代だが、コロナ禍で先行きが不透明になる中で、しっかりしたブランドに裏付けられた情報が求められているといえそうだ。両社ともこれから年度末に向けた需要期に向けて強力にプロモーションを展開する予定で、定番商品の盛り上がりは販売現場にとっても朗報となっている。両書の特徴や今後の展開について取材した。【星野渉、成相裕幸】

 

丸善ラゾーナ川崎店での展開

丸善丸の内本店での展開

 

東洋経済『会社四季報 業界地図』 強みは「職人集団」の取材執筆力

 

 東洋経済新報社の「業界地図」は同社が年間で刊行する書籍の中で一番売れてるものの一つ。2005年から、B5カラー版で毎年刊行の現在の形となった。それ以前は『週刊東洋経済』増刊やA5版単行本など様々な形で、時期も不定期だった。今は『会社四季報 業界地図』が正式な書名だ。過去数年は16~17万部で推移していたが20年発行の21年度版は初めて20万部を突破、過去最高の5刷21万5000部まで伸長した。

 

 

 西澤佑介編集長によると、21年度版は巻頭特集で新常態となったテレワーク、病院、オンライン診療などを注目業界として載せたこと、そして、ビジネススタイルが大きく変わったことで、各業界への影響など世間的な関心が増したことがあるという。21年8月に刊行した22年度版は現在3刷を検討中で、部数は過去最高を更新する見込みだ。

 

 取材執筆は『会社四季報』でも執筆する専門記者が開示資料などをもとに独自取材する。22年度のカバー業界は170超。05年の刊行当初から3倍近く増やした。

 

 編集方針で留意しているのは、細かいところまで手を抜かずに情報を盛り込むこと。企業間の資本業務提携や資本関係をチャートでつなぐときには企業間の出資比率まで記載する。海外企業の売上高などの数字は、読者が規模感を比べやすいように円表記にする。前年掲載写真を基本的には流用せず新たな写真に差し替える。欄外には担当記者独自の視点での注目企業やサービスも載せている。「我々は職人集団。前号よりも今号の方をより詳細でよいものにしてこうとするモチベーションは当然働く。『これでもか』というくらいやるのが我々のこだわり」(西澤編集長)。

 

 読者属性は大きくわけて投資家、就活生・転職希望者、ビジネスパーソン。数はおよそ3分の1ずつ。投資家は銘柄発掘に。就活生は業界研究の「定番本」として大学キャリアセンターからの推薦、就活先輩から後輩への推薦。ビジネスパーソンはクライアントの属する業界の下調べや新規開拓、また証券会社などの研修での採用もある。

 

 売れる時期は発売直後の9月あたりに一つ目の山があり、それが過ぎると12月から翌年1、2月の就活シーズンにむけて次の山がある。ただ、媒体の性格上、オールシーズンで展開できることから実売が大きく落ち込まず消化率は高水準を維持している。

 

 これまで手薄だった販促やプロモーションは19年10月の西澤氏の編集長就任時から意識的に外部メディアでの露出を強化している。これまでにBS朝日、ラジオnikkeiに出演。読売新聞グループが企画運営する就活講座には、「就職四季報」編集長とともにオンライン出演した。

 

 さらには角川ドワンゴ学園が運営する通信制高校N高等学校の「投資部」にも外部講師として過去2回授業を行った。「(業界地図に載っている情報は)世の中に関する知識だから高校生が知っていても損はない。もっと認知が広がっていいはず」(西澤編集長)。21年12月下旬に首都圏JR路線でのドア横広告も出稿し周知に努める。

 

日経BP『日経業界地図2022年版』 10万部目標にプロモーション強化

 

 日経BPの『日経業界地図2022年版』は発売直後に2刷を実施し、実売前年比が130%と好調だ。これまで発行元だった日本経済新聞出版社と日経BPが20年4月に経営統合したことで、巻頭特集に日経BP総合研究所が加わるなどグループのリソースを投入できる体制となり、10万部を目標に大型プロモーションを展開している。

 

 

 同書は04年に刊行をスタート。発行部数は6万部前後で推移してきたが、ここ数年売れ行きが良く、22年版は初版から8万部を発行し、すでに2刷で9万部となっている。

 

 日々取材を続ける日経新聞の記者が執筆するなど、日経のブランドを前面に出せるのが同書の強みだ。加えて日経グループのリソースが使えるようになったことで、さらに内容は充実している。

 

 今回はカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーなど従来の業界に収まらない16の注目ジャンルを掲載。これらの執筆は日経BP総合研究所が担当した。第2編集部次長兼 第1編集部の野崎剛氏は、日経BPと日本経済新聞出版社との統合で「テクノロジーやベンチャー、海外など、以前から強化したいと考えていたことを実現できる」と述べる。

 

 主なターゲットはビジネスパーソン、就活生、個人投資家。ビジネスパーソンは自分の業界や取引先の業界に付箋を貼って持ち歩くなど、紙の冊子が好まれる。また、読者の性別は男性60%だが、同社の書籍としては女性比率が高く、特に最近は若い女性読者が増えているという。

 

 また、前年からは大学が多い路線での交通広告や、ネット、SNSで広告を配信するなど、就活生へのアプローチも強めている。

 

 22年版は初動から盛り上げるため、8月24日の刊行直後に日経新聞に単品で全5段広告を出稿したのをはじめ、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞など全国紙に広告を掲載。さらに8月末からJR首都圏全線、9月下旬には東京メトロ丸ノ内線と銀座線のドア横に広告を展開。発売直後にこの規模での交通広告は初めてだという。

 

 こうした広告展開と店頭を連動させるため、販促を担当する日経BPマーケティングが特約書店やナショナルチェーンを中心に平台展開を働きかけ、初回配本を強化、これらの取り組みが発売直後からのスタートダッシュに結びついた形だ。

 

 売れ行きが良い背景について出版マーケティング部・鬼頭穣氏は、同社のプロモーションとともに「コロナ禍によって各業界の先行きが不透明になることで、ビジネスパーソン、就活生、個人投資家のいずれもが必要としている」と述べる。

 

 日経BPでは12月、3週間にわたりJR首都圏全線の車内ドア横広告を掲出する大型宣伝プロジェクトを展開中だが、13日から19日に同書を掲出するのをはじめ、大きな需要期になる年度末に向けて露出を増やし、10万部に向けてさらに販促に力を入れる。