宝島社 新聞広告の五感で訴える「商品では伝えきれない、企業のメッセージ」

2021年9月28日

「国民は、自宅で見殺しにされようとしている。」(21年9月掲載:朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞)

 

 宝島社は創業者の蓮見清一社長の「商品では伝えきれない、企業の考えを世の中に発信したい」という思いにもとづき、1998年から“社会に伝えたいメッセージ”を新聞紙面の企業広告で掲出している。2021年5月11日にメッセージ広告「このままじゃ、政治に殺される。」を朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞の3紙に掲載。9月22日にも「国民は、自宅で見殺しにされようとしている。」を同3紙に見開き全30段で展開した。

 

 新型コロナウイルスで自粛要請を強いられる事態に警鐘を鳴らし、科学の力(ワクチンや治療薬)が必要と訴えた5月11日掲載の見開き広告は、新聞購読者のみならず、SNS上で大きな話題を呼んだ。国内外のメディアで取り上げられ、これまで掲出した広告の中で最も反響が大きかったという。新聞紙面に掲載された企業広告が発端となって、社会全体のコミュニケーションが活発化する一例となった。

 

社会に向けたメッセージ、コミュニケーションを喚起

ファッション雑誌販売部数トップシェアの宝島社

 

 蓮見社長は創業当時から、コミュニケーションを重要視しており、企業広告においても商品だけでは伝えきれないメッセージを社会に発信するため、新聞紙面で展開してきた。広告内容について、それぞれが意見を言い合うなど、コミュニケーションの起点として役立ててほしいとの思いもある。

 

 こうした宝島社のメッセージ広告は、1年に複数回出稿することもあれば、数年間出稿しない時期もある。掲出の時期は注目を集める年末年始などに掲出が多いものの、その時期に社会へ伝えるメッセージ広告であるため、出稿のタイミングはその都度、決定している。

 

 また、宣伝広告と目的が異なるため、「宝島社」の社名はあえて目立たないように小さくし、広告に込めたメッセージを際立たせているという。

 

 宝島社の企業広告は博報堂クリエイティブディレクターだった前田知巳氏が中心となってスタートした。現在は電通やADKといった広告会社も製作に関わるようになったが、宝島社とクリエイティブチームのトップ同士が話し合う当初の枠組みは変わらない。形式張った会議やプレゼンではなく、雑談に近いブレストの中からアイデアを拾い上げている。

 

「死ぬときぐらい好きにさせてよ」(16年1月掲載:朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、日刊ゲンダイ)

 

 広告テーマの自由度は高く、宝島社が提案することもあれば、逆に広告会社のクリエイターから提案されることもある。SNSが普及する以前は問い合わせが殺到し、会社の電話が鳴り続けることもあったという。

 

 16年1月に掲載した、女優の樹木希林さんが出演した広告「死ぬときぐらい好きにさせてよ」は大きな話題を呼び、読売広告大賞と朝日広告賞のグランプリを受賞するなど高く評価された。このほかにも宝島社は数多くの広告賞を受賞している。

 

コロナ禍の2021年、年始に4種の広告出稿

「君たちは腹が立たないのか。」(21年1月掲載、読売新聞)

「暴力は、失敗する。」(21年1月掲載、日本経済新聞)

 

 21年は1月6日に「君たちは腹が立たないのか。」を読売新聞、「暴力は、失敗する。」を日本経済新聞に掲載した。「正しく怒りの声をあげることの大切さ」「暴力は確かな知性をもってバカにして、失敗するのを見届けよう」との意図が込められている。

 

「ねちょりんこ、ダメ。」(21年1月掲載:朝日新聞、日刊ゲンダイ)

 

 同じく1月6日に、コロナ感染対策をテーマにした「ねちょりんこ、ダメ。」を朝日新聞と日刊ゲンダイに掲載した。不用意な「濃厚接触」は避ける必要があることを、“ねちょりんこ”という言葉(造語)と北斎漫画で表現している。

 

「言われなくても、やってます。」(21年1月掲載:朝日新聞)

 

 また、続く1月7日にもコロナ対策をテーマにした「言われなくても、やってます。」を朝日新聞に掲載した。いずれのメッセージ広告も背景にあるのは19年末から続き、今なお収束の見通しが立たないコロナ禍だ。

 

国内外のメディアが反応、SNSでも議論が沸き起こる

「このままじゃ、政治に殺される。」(21年5月掲載:朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞)

 

 3回目の緊急事態宣言が発令されている最中の5月11日、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞の朝刊に「このままじゃ、政治に殺される。」が見開きで掲載された。太平洋戦争末期に幼い少女たちが戦闘訓練している写真を全面に展開し、「ワクチンもない。クスリもない。タケヤリで戰えというのか。このままじゃ、政治に殺される。」という強烈なメッセージが目を引く内容となっている。

 

 同広告の意図は「今の日本の状況は、幼い女子まで竹槍訓練を強いられた戦時中の非科学的な戦術に重なり合う。新型ウイルスに対抗するには、科学の力(ワクチンや治療薬)が必要だ。そんな怒りの声をあげるべき時が、来ているのではないか」と社会に呼びかけるものだ。

 

 各種メディアも注目し、新聞やテレビ、Webメディアのほか、海外の通信社などからも問い合わせが殺到した。メディア露出は宝島社が確認しているだけで600件以上にのぼるという。また、賛否両論を呼ぶ内容はSNSで話題となり、さまざまな議論が沸き起こった。

 

 電話や手紙で個人からの問い合わせも多数寄せられ、その中には「新聞は読んでないがラジオで聞いた」といったものから「宝島社は何の会社なのか?」など、宝島社が普段リーチしていない層にもメッセージが届いていた。同広告は、日本新聞協会が実施している「新聞オーディエンス調査365」5月度の調査で印象に残った新聞広告としても挙げられた。

 

「いま、社会に伝えたいメッセージ」 新聞広告が考えるきっかけに

 

 9月22日に全国紙3紙で掲載された「国民は、自宅で見殺しにされようとしている。」では、逼迫する医療現場の窮状と政府のコロナ対策に疑問を投げかけている。

 

 今回の広告意図については「新型コロナウイルスによる医療逼迫が起きました。新規感染者は減少しているとも言われますが、いまも十分な治療を受けられないまま、亡くなるかたもいます。信じられないことですが、これは現実です。こうなる前に、できることはなかったのでしょうか。今後、再び感染が拡大した時の対策は、講じられているのでしょうか。この広告が、いま一度考えるきっかけになれば幸いです」とコメントを発表した。

 

 こうしたメッセージ広告を新聞で展開する理由について、宝島社は「五感に訴える強さが他の媒体と異なるためだ」と語っている。