【地方から「活字力」発信】BL出版 国際都市神戸から「世界」の作品発信 国境、世代超える絵本の力

2021年5月19日

果敢に挑戦して出版した『アンジュール ある犬の物語』を手にする落合さん(左後ろは同社代表作「ぞうのエルマー」)

 

 幼児教材、知育玩具などの販売会社、ブックローン(1965年創業)の出版部門として誕生し、70年に刊行した「チャイクロ」は50年以上経った現在も改訂を重ね、動き続ける大ヒットシリーズ(全8巻)となっている。74年にブックローン出版として独立(97年BL出版に改称)。コンセプト「For the Best Library」を掲げ、絵本を中心に出版活動を進める。長谷川義史さんのデビュー作『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』は、同社から01年に刊行され、長谷川さんは人気絵本作家の階段を登っていった。BL出版5代目社長の落合直也さんに代表作刊行の経緯や、絵本に対する特別な思いを聞いた。

【堀雅視】

 


転機となったバンサン作品

 

 同社は国際都市「神戸」の特性を生かし、海外絵本の翻訳版を中心に出版してきた。落合さんは76年、ブックローンに入社。フランスで書店を展開するグループ企業のブックローンヨーロッパへの出向などを経て、営業、編集と経験を積んでいく。

 

 「思いれのある仕事は数知れず」と落合さん。中でもベルギーの絵本作家、ガブリエル・バンサン氏(2000年没)との出会いは自身の原点だと語る。バンサン氏とは83年、「くまのアーネストおじさん」シリーズを手掛けたことに始まり、親交を深めていった。

 

 86年刊の『アンジュール ある犬の物語』は、文字を一切使用せず、モノクロデッサンのみで犬の心中や姿を描写。社内では「字のない絵本なんて売れるのか」と反対の声もあったが、当時の社長に直談判し、出版が決定。

 

 結果、多くの読者に受け入れられ、現在61刷という驚異的な版を重ねる。児童文学作家の今江祥智氏(15年没)が自身の講演会で同書を称賛したことがきっかけで、同氏には多くのバンサン作品の翻訳を依頼した。

 

日本向けオリジナル作品に挑戦

 改めてバンサン氏のデッサンセンス、物語の感性に感銘した落合さんは96年、日本向けのオリジナル作品の創作を申し出る。丁寧な仕事を積み重ねてきたことで信頼関係が構築され、快諾を得た。翌年、『NABIL』と題された絵本としては膨大な130㌻におよぶラフが届く。落合さんは、「現地にはバンサン作品をずっと手掛けてきた出版社があり、そこを飛び越えての挑戦。上手くいくか不安もあったが、その点もクリアされ、原画が届いたときの感激は今でも忘れられない」と感慨深く語る。

 

 3年の歳月を経て『ナビル ある少年の物語』が誕生する。オリジナル第2弾として『ヴァイオリニスト』の準備を始めていた矢先にバンサン氏の訃報が届いた。落合さんは「大きなショックを受けた。バンサンも第2弾の完成を見ることができず悔しかったのでは」と偲び、「バンサンの作品に込めた思いは、私の絵本制作の原点。今後も受け継いでいきたい」と誓う。

 

世界の優秀作品を発掘

 

 18年に始まった「世界のむかしばなし絵本」シリーズは今年3月に第Ⅱ期(累計10作)が完成し、順調に推移しているという。落合さんは「世界には多くの昔話があるなか、日本であまり知られていないが、その国や地域の情景が伝わる内容で、絵本にしたときに画家の魅力が発揮される作品を厳選した」と話す。

 

 

「世界のむかしばなし絵本」シリーズ 『ヴォドニークの水の館』(チェコ)

「世界のむかしばなし絵本」シリーズ 『ヘビと船長』(フランス)

「世界のむかしばなし絵本」シリーズ 『梨の子ペリーナ』(イタリア)

 

 第Ⅰ期のブルガリアのむかしばなし『金の鳥』(文・八百板洋子/絵・さかたきよこ)は、年度の第25回日本絵本賞(全国学校図書館協議会)を受賞。第Ⅱ期も好評で、イタリアの作品『梨の子ペリーナ』の絵を描いた酒井駒子氏は現在、東京・立川の「PLAY! MUSEUM」で「みみをすますように 酒井駒子」展を催し、『梨の子ペリーナ』の原画も展示されている(7月4日まで)。現在、第Ⅲ期に向けて、国や地域、作品の選定を進めているという。

 

世代問わない新しい絵本追求

 

 コロナ禍で児童書をはじめ、本、読書の意義が見直される中、落合さんは、「絵本は子どものものと思われがちだが、年齢に関係なく読めて、心に響く作品が多い」と絵本の特性を説く。実際に20年刊の絵本『おくりもの』(豊福まきこ)を読んだ大学生から、「進路に悩んでいるとき、優しい絵と、温かい愛であふれた動物たちの言葉が不安を包み込んでくれた」と感想が寄せられたエピソードもある。

 

 最後に「世界の秀作絵本を広める一方で、日本の作家の個性溢れる作品も出版し、読者の世代を問わない新しい絵本を追求していきたい」と熱く語っていた。