【寄稿】ふるさとの味、おふくろの味 「ふたつの贅沢」

2021年2月25日

 私のおふくろは香川県の丸亀出身で、戦時中にお見合いで和歌山県東牟婁郡(今の田辺市本宮町)請川出身のおやじと結婚した。その両方が私のふるさとで、子供の頃から大学に至るまで一人で遊びに行っていた。

 

 請川へは、振り子式特急の“くろしお”で新宮へ、そこからプロペラ船で請川まで。香川県坂出には急行“鷲羽”で宇野へ、宇高連絡船で高松へ、予讃線で坂出に。連絡船乗り場には立ち食いうどんがあり先ず1 杯、1 時間くらいの連絡船の中でもう1 杯、船を降りて坂出方面行きの列車を待つ間に高松駅でもう1 杯。楽しい旅であった。

 

 さて、おふくろのふるさと香川県には珍しい(?)食べ物がある。料理研究家・土井善晴さんのお父さんの土井勝さんがテレビでも紹介された、醤油うどんとお雑煮である。

 

 醤油うどんは、茹でたうどんの上に生醤油をかけ葱をのせていただく。昭和63 年に『月刊タウン情報かがわ』の「讃岐うどん針の穴場探訪記・ゲリラうどん通ごっこ」が連載され、若者を中心に訪れだし、香川県のうどんがブームになったという。2011 年11 月に、うどん県改名を宣言した。副知事(?)は俳優の要潤さん。因みに、私が四国への旅の途中で食べたうどんはかけうどんであった。

 

 お雑煮は、白味噌仕立てでお餅は焼かない餡餅を入れて煮る。我が家の正月は、おやじと私たち子ども用の、和歌山の澄まし汁に焼きもちを入れた雑煮と、自分用の丸亀の味噌雑煮の二種を、元旦の朝からおふくろはこしらえていた。

 

 私たち子ども二人は、大人になるまで一度もその味噌雑煮を食べることはなかった。私たち姉弟がそれぞれ家庭をもち、子どもが生まれてからも実家でお正月を迎えた。姪と、私の二人の息子がお雑煮を食べられるようになったとき、おふくろの味噌雑煮を見て、「私も食べたい」、「僕も食べたい」と言って孫たち3人がおふくろにせがんだ。

 

 自分の子どもも食べず、ずっと一人だけで食べていた味噌雑煮を孫たちがせがんだのだ。おふくろは嬉々として味噌雑煮を増量し、孫たちと食べていた。本当に嬉しそうだった。私たちも少しだけいただいた。白味噌の甘さと、焼かない餡餅の甘さがマッチして美味しかった。

 

 香川県にはもう一つ、私のふるさとの味がある。しょうゆ豆である。乾燥したソラマメを煎り、砂糖と濃口醤油で煮る。それだけなのだが、美味しい。おふくろはソラマメを見つけると調理し、お弁当に入れてくれた。私の大好物であった。今でも香川方面に行くと必ず買って帰る。

 

 最後に、親父のふるさとの味について少しだけ触れる。さんまの丸干しと、めはり寿司である。どちらも好物だが、どうしても受けつけられないふるさとの味がもう一つ。熊野灘でとれたさんまを塩漬けにし、ごはんにのせ発酵させた“さんまの熟れ寿司”である。おやじの好物であり食通をうならせる味とのことだが、どろどろの発酵したごはんとすっぱそうな香りがどうしても無理である。新宮市と親父には申し訳ないと思うが、こればかりは無理。

 

 私の子どもたちのふるさとは奈良。ふるさとの味はあるのだろうか。私の、こんな好きも嫌いもふるさとが二つもあっての贅沢かもしれない。

 


 嶝牧夫(さこまきお)

 

嶝牧夫氏=朱鷺書房代表取締役