【ふるさと新聞だより】出雲より「この国の かたち」を見据えて――「島根日日新聞」

2021年1月22日

「島根日日新聞」

 

 以前は前社主の菊地幸介さんが毎日綴っていた一面の名物コラム「島根調」。3年前に長男の恵介氏が後を継いで以来、幹部記者が交代で筆を執る。その中でも、土江さんと日野さんの博識ぶりが目に留まる。

 

 科学技術分野に詳しい土江さんは、12月22日号で、菅内閣の再エネ政策について、もっと海洋エネルギーに目を向けるべき、と論じている。平坦地も大河川も少ない日本では太陽光発電や水力発電は不利として、「日本は世界7位の海岸線、6位の領海及び排他的経済水域を誇る。海に〝エネルギー資源〟を求めるのは自然」と強調。「日本は海洋エネルギーでも他国の後塵を拝している。長い海岸線を持つ島根県、積極的に声をあげてみては」と、海洋発電への〝島根の出番〟を提唱する。

 

 日野さんの得意は人文分野。12月23日号で、空気が澄む晩秋から初冬にかけて見られる「ヤコブの梯子」について、「鈍色の雲間からもれた太陽の光が放射線状に地上に降り注ぐ…雲の切れ間が光かがやき、幾すじもの光が地上にと届く光景は…神秘的であり、ドラマチックである」と書く。宮沢賢治がこれを「光でできたパイプオルガン」と表現したことも引き、「光や風、雲の動きを楽しむことは、誰も邪魔することはできない。八雲立つ、雲いづる国にあって、大切なものを見失わないようにしたい」と結ぶ。コロナ禍が切迫して息苦しい世の中に、ほっとする心を取戻させてくれる。

 

 再生エネルギーについては、幸介氏も2面コラム「うのめたかのめ」で論を張る(12月21日)。「政府は、2040年を目標に火力発電所30から45基分の洋上風力発電所を計画している。…再エネ政策が)国の原子力政策によって足踏みしてきたことは事実だ。…火力発電は燃料を化石燃料に依存してきたことに問題があった。…自然にやさしい燃料の液体水素を早期に導入すべきである。そのためにも、米国からの『真の独立』が前提だ。覚悟する時期だと感じている」。幸介氏、〝隠居〟を公言しているが、まだまだ往年の客気の火は消えないようだ。

 

 新社長の恵介氏は、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)元年」の今こそ、農山漁村・過疎地域の再生・活性化を通しての日本の社会構造転換の好機だと説く(12月21日付)。また、本年新年号では、年末の大雪に触れ、「コロナ禍の感染が広がる中、天が見かねて、『人間よ、落ち着け』と警鐘を鳴らしているような気もしてくる。…まずはこの雪で足元を見ないといけないだろうが、時折、顔を上げ、行く先を見つめてみようか。田の中、力強く鋤を引く牛のように…」と語りかける。

 

 他にも、身辺事象をヒューマンな視線で取り上げる飯塚さん、八幡垣さん、ポップなどサブカルチャーに詳しい渡部さん、神田さん、「この国のかたち」に正面から向き合う柳原さんなど、「島根調」の筆者は多士済々。総じて、社会構造変革、地球環境問題、そして島根の地域おこしという共通の問題意識をもって筆を執っているように見受けられる。これだけの陣容を揃えていれば、前社主も安心して〝ご隠居ライフ〟を満喫できるであろう。

 

 【山岸修】

 

□「島根日日新聞」(菊地恵介社長) =㈱島根日日新聞社。1980年創刊(出自は1903年創刊の出雲新聞)。日刊、ブランケット判10ページ。公称発行部数6万7000部。島根県出雲市今市町743―22

 


 

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