420ページのビジネス書が1カ月で10万部超に 致知出版社『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』

2021年1月20日

致知出版社『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』

 

 致知出版社の『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭監修)が、異例のスピードで実売を伸ばしている。420ページ超、本文3段組みながらも、発売1カ月で10万部を超えた。新型コロナウイルス感染症の拡大で、社会に停滞感がただよう中でも、仕事のプロフェッショナルが残した言葉に鼓舞される読者が広がっている。

 

【成相裕幸】

 


 

コロナ禍の閉塞打破、仕事のプロが鼓舞

 

 「基本的にプロというのは、ミスをしてはいけないんですよ。」(王貞治・福岡ソフトバンクホークス球団会長)、「仕事が面白いと思うためには、自分が本当に懸けないと、絶対にそうは思えない。」(柳井正・ファーストリテイリング会長兼社長)――。


 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』には1月1日から12月31日まで、1人1話ずつ2~3分で読める分量で、仕事で直面している壁を打ち破るような言葉が並んでいる。


 表紙の稲盛和夫氏(京セラ名誉会長)、張富士夫氏(トヨタ自動車相談役)、佐藤可士和氏(クリエイティブディレクター)といったビジネスなどで大きな実績を残した人物に目がいきがちだが、スポーツ選手や文化人などジャンルを問わず、そして有名無名も問わず、市井の主婦らも同列に収録している。彼らに共通するのは「プロとして仕事を極めることで、人生を豊かなものにした人たち」であることだ。


 編集を担当した小森俊司氏は「成功者の成功譚ではなく、彼らが死に物狂いでつかんだ真理や知恵などが若い人や管理職などそれぞれの立場の人たちに、感動を与えているのではないか」と見る。

 

月刊誌『致知』インタビュー5000本読んで厳選

 

 同社が発行している「人間学」を探究する定期月刊誌『致知』に掲載されたインタビューを、1人1ページに再構成した。3段組みで文字が詰まると読みづらくなるため、途中に短い文章もはさむなど飽きさせない工夫もしている。


 小森氏は『致知』の編集に17年携わった。創刊から1万本近く掲載されたインタビューを5000本以上読み、「自分自身の心が熱くなったかどうか」をひとつの基準に、そして編集長をはじめ編集部の総力を結集して書籍にする365本を厳選した。同誌は定期購読が主のため、一般の読者が初めて目にする文章ばかりだ。「今日の仕事に行くのが楽しくなったり、自分自身の心も鼓舞されて、やる気が湧いてくる本にしたかった」(小森氏)。

 

なぜこの本をコロナ禍に刊行するか力説

 

 昨年11月末の発売前には、同社が運営するメルマガやフェイスブックで告知。その他の自社SNSフォロワーを合わせると25万人ほどのコア読者がいるため、ウェブでの伝播力は強く、発売前の11月11日にAmazon総合1位にもなった。ただ、これまでリアル書店での広がりにうまく接続することができなかったのが課題だった。


 そこで、小森氏は刊行前、自らがゲラをもって書店を訪問し、本書に込めた思いを伝えた。特に、丸善丸の内本店の篠田晃典店長に「これはいける」と太鼓判を押され、店内に19枚のポスターを掲示。11月20日に先行発売したところ、1週間で100冊、10日間で200冊の実売があり、さらに200部の追加注文もあった。


 また、50書店ほどに直筆の手紙をしたためて送った。「特に強調したのが、なぜこの本をコロナ禍に出すのか。コロナで社会が停滞している中で、人間の底力はすごいことを今こそ感じてほしいと書いた」(小森氏)。すると、それまで面識のなかった書店員からも、「私たちも大切に一生懸命に売ります」と記された注文書がFAXで届いたりしたという。

 

女性の実売も増、新たな読者層開拓

 

 11月30日に初版8000部で発売すると、1週間で4万1000部、3週間で7万1000部に到達。さらに、12月21日から始めた東京メトロ銀座線・丸の内線・日比谷線車内に掲出した電車広告が効き、実売が加速。年末にはブックレビューサイト「ブクログ」で2020年の評価1位にも選ばれ、発売1カ月で10万部の大台を超えた。


 売れ方についても、ビジネス街の書店だけでなく、イオンモールなどに入る未来屋書店でも、本部担当者が驚くほどの実売が出ているという。発売当初に比べて女性の比率が高くなっているのも特徴だ。これまで同社との接点が少なかった30~49歳の男性の購入が最も多くなるなど、新たな読者層の開拓にもつながっている。

 

「価値あるものには見合う対価を出してくれる」

売れ行き好調な丸善丸の内本店

 

 同書は本体2350円、420ページ超と簡単には手に取りにくいのではと思われがちだが、小森氏は「ダイヤモンド社さんの『独学大全』や『哲学と宗教全史』の売れ方をみても、本気で学びたいことを欲している人は増えている。価値のあるものにはそれに見合う対価を出してくれると感じている。一般的に高いとの感覚はこちらの思い込みでは」と話している。


 1月25日からは、反応がよかった東京メトロの電車広告を1週間、再度掲出する。同27日には、丸善丸の内本店1~3階を45枚のポスターがジャックする。年度内に20万部到達が目標だ。