ジュンク堂書店難波店 『興福寺の365日』(西日本出版社)刊行記念トークセッション開催

2020年11月13日
 

著名映像作家作成のDVD付き

 

 ジュンク堂書店難波店(大阪市中央区)は11月7日、西日本出版社(大阪・内山正之社長)が10月に刊行した『興福寺の365日』の著者、興福寺・執事兼境内管理室長の辻明俊氏を招き、同店・福嶋聡店長と「興福寺の僧侶の日常のお話」と題し、トークセッションを開催した。

 

【堀雅視】

 


 

福嶋店長「コロナ禍でもリアル店の信念譲れない」

西日本出版社『興福寺の365日』

 

 平城京遷都を主導したとされる藤原不比等が創建し、「阿修羅像」や「千手観音菩薩像」など多くの国宝を有する興福寺。『興福寺の365日』は、千年以上伝わる、生涯に一度しか受験できない僧侶の口述試験「竪義」(りゅうぎ)を乗り越えた辻氏が、お寺に起こる不思議な現象や日々の修行など興福寺の日常を執筆。「情熱大陸」や「世界遺産」のカメラマンで映像作家の保山耕一氏作成の「御仏、祈り、四季の景色」などをテーマにした66分のDVD付きとなっている。

 

 寺の家に生まれた辻氏は、外国語が堪能だったこともあって語学を使う仕事を望み、外国に行きたかったという。トークショーでは、父親に諭され進んだ仏教系の大学で自身を戒め、律する生活を送ったエピソードから普段の興福寺の様子、僧侶の日常生活などについて語り、参加者は興味深く聴き入った。

 

福嶋店長(左)と興福寺の日常を語る辻氏

 

 広報や企画事業も担当する辻氏は阿修羅像などの展覧会も手掛ける。数時間待ちの長蛇の列ができた展覧会について「多くの人が来てくれてありがたいが、我先に展示物に向かって走り、手も合わさない。信仰、祈り、あくまで宗教空間、向き合う対象は仏様という心を持ってほしい」とし、「そんな中、阿修羅像の前に50円玉を1枚置いて行った人がいる。その50円は今でも大事に持っている」と語った。

 

 本紙取材に同店・福嶋店長は、コロナ禍で店頭イベントの自粛傾向が続く中での開催について「配信では伝わらない空気感がある。ネット書店が隆盛し、我々リアル店はどうやって来店してもらうかを考えてきた。その精神は譲れない」と、今後も感染対策を整えながらイベントは実施していきたいとした。

 

リアル書店を応援したい

 

 西日本出版社・内山社長も「出版社も書店に営業に行っていないが、それが正しいとは思えない。コロナ禍で書店は意気消沈している。このイベントも書店でやりたかった」と意義を強調した。

 

 本書の原稿を編集プロダクションに託していたという辻氏は「全国の書店に自ら営業活動する力強い人がいると聞き、内山さんの社から出したいとなった。店頭に並ぶ自分の本を見ると書店と信頼関係を築かれた内山さんの努力がわかる」と、西日本出版社から刊行した経緯を話し、「奈良の書店と会い、厳しい現状を知った。多くの人が知る興福寺だが、さらに理解を深めてもらい、書店のお役にも立てればなおうれしい」と語っていた。