KADOKAWA 第11回「山田風太郎賞」は今村翔吾氏の『じんかん』に

2020年10月26日

『じんかん』で受賞した今村翔吾氏

 

 KADOKAWAと角川文化振興財団が主催する第11回「山田風太郎賞」の選考会は10月16日、東京・千代田区の東京會舘で開かれ、今村翔吾箸『じんかん』(講談社)を選出した。

 

 選考会後、選考委員を代表して貴志祐介氏が登壇。選考経過の説明が行われ、『じんかん』は最終候補5作品の中でも圧倒的な支持を集めての授賞であったことが明かされた。貴志氏自身、同作は514ページにわたる長編ながら短時間で読破したと語り、熱量にあふれた内容でありつつ「最後に爽やかなものが残る」とコメントした。

 

 会見で記者から、コロナ禍における〝文学賞〟について問われると、「今後、文学賞の何が変わるかはまだ分からない」としたうえで、「文学は(人々に)エールを送ることができるのか分からないが、書き手は『コロナに負けない』という気構えで書いている。もうすぐ、次々に傑作が出てくるだろう。読者も楽しみに待っていてほしい」と話した。

 

 続いて、受賞した今村氏が登壇。今村氏は著書『八本目の槍』で石田三成を、今作で松永久秀といういわゆる「敗者」とされる人々を描いている。その理由について「〝滅びの美学〟は好きな題材。敗者を描くことによって、その時代の真実が見えてくるように思うからだ」とこだわりを語った。

 

 さらに、今村氏の文体が独特の躍動感、ドライブ感を感じさせる理由を問われると、「『歴史小説』と名のつくものは、ほぼ読んできた」といい、「だからこそ、『こういうシーンは〇〇先生っぽく』というギアチェンジが人より多いのかもしれない。自分の中に残っている他の先生方のエッセンスを、今村風に表現している」と明かした。

 

 常に「最高の作品を」と思いながら書き続けてきた中で、本作は間違いなく「今の到達点である」とした今村氏。しかし、「ちょっと目が肥えてきて、納得いかなくなってきた。『なんかちゃうねんな』を形にできるのが、次の作品」とも述べた。