推理作家協会賞  『スワン』(KADOKAWA)など受賞、リモート記者会見開く

2020年8月3日

「長編および連作短編集部門」は呉勝浩『スワン』(KADOKAWA)

 

 日本推理作家協会はこのほど、第73回「日本推理作家協会賞」の受賞者を発表した。「長編および連作短編集部門」は呉勝浩『スワン』(KADOKAWA)に、「短編部門」は矢樹純「夫の骨」(祥伝社『夫の骨』収録)に、「評論・研究部門」は金承哲『遠藤周作と探偵小説 痕跡と追跡の文学』(教文館)に決定し、7月10日にリモート記者会見を行った。

 

 会見の冒頭、司会進行を務める道尾秀介氏が、当初4月に予定されていた選考会は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で延期されたことを報告。続いて、代表理事の京極夏彦氏が、選考会に立ち会った理事の報告を代読した。

 

 それによると、今回の候補作品の中でも『スワン』は質量・熱量ともにずば抜けていると評価が高かった。「夫の骨」も選考委員が最初に投票を行った段階から、その完成度が高得点を得て、異議なく選出された。『遠藤周作と探偵小説』も、「正統的な評論」だと評価された。

 

 『スワン』で受賞した呉氏は「推理小説家になりたくて、小説を書き始めた」と話し、だからこそ、推理作家たちによって選ばれる同賞受賞を「先輩方に推理小説として『良い作品』だと太鼓判を押していただけた」と喜んだ。

 

「短編部門」は矢樹純「夫の骨」に

 

 矢樹氏は「夫の骨」について、どこに発表するあてもなく書き始めた作品だと告白。2002年から漫画家として活動しており、「小説家としてのキャリアは浅い。練習として短編を書いていた。何作も書くうちに力がついてきた実感があった」と話した。

 

「評論・研究部門」は金承哲『遠藤周作と探偵小説 痕跡と追跡の文学』

 

 金氏は、南山大学に籍を置くキリスト教神学の研究者。遠藤周作というキリスト教を主題とする作品を多く手掛けた作家を通して、「神学・哲学と文学の関係づくりを目指した評論であった」と語った。

 

 京極代表理事は今回の選考などについて、「調整は難しいが、いろいろなことをやっていかなくては」と、試行錯誤を続けると言及。「従来の贈賞式・祝賀会のように、受賞者が選考委員と歓談する場がなくなってしまうことは寂しい」とも漏らした。

 

 なお、各選考委員の選評は集英社『小説すばる』9月号に掲載される。