3月の書店販売はプラス “巣ごもり需要”あるも予断許さず

2020年3月31日

3月は地域の比較的小規模店で売り上げが伸びた(写真はイメージ)

 

 新型コロナウイルスの感染拡大は、これまでのところ書籍やコミックスの販売を押し上げる〝巣ごもり効果〟を生んでいるが、小池百合子東京都知事の呼びかけで外出自粛が広がった週末は休業する書店もあり、さらに物流現場への波及も予想されることから、今後の推移によって出版市場がマイナスに振れる可能性もあって予断を許さない状況だ。

 

雑誌は発売見送り多くマイナスに

 

 大手取次トーハンによると、同社取引先書店の販売データを集計した売り上げは3月1~24日の前年同期比が1・2%増とプラスになった。昨年4月から今年2月末までの伸び率が同1・6%減で推移してきたことからみても、明らかにこの時期に需要が伸びたことを示している。

 

 ジャンル別では書籍が同1%減と横ばい、そしてコミックス(コミック単行本)が同24%増と大きく伸びた一方で、雑誌は中国生産が多い付録が入荷しないことで付録付きムックやコンビニエンスストアのPB商品の発売見送りが発生し、販売は同12%減と大きく落ち込んだ。

 

 コミックスは昨年以来、驚異的な売れ行きが続いている『鬼滅の刃』(集英社)など売れ筋商品の存在もあるが、それ以外の既刊作品の動きも良くなっており、店頭では長い巻数の作品を一括購入するケースも見受けられることから、休校や外出自粛などによる需要があるようだ。

 

 書籍の中で特に好調なのはやはり小中高校の臨時休業に伴って需要が増えている同50%増の学習参考書・辞書と同20%増の児童書。2月までは学参・辞書が同2%減、児童書が同5%減だったことから、この両分野が休校による巣ごもり需要で跳ね上がったことがわかる。

 

ガイドブックは大幅にマイナス

 

 逆に低迷したジャンルは、2月まで同7%減だった地図・ガイド(3月同46%減)と、2月まで同6%減だった趣味・実用(同15%減)。

 

 地図・ガイドのうち地図は約3割減にとどまっているが、ガイドブックは海外・国内とも約6割減と半減以下。国内外ともに旅行者の減少が響いているが、中でも感染拡大が伝えられるイタリアとスペインのガイドブックはいずれも約9割減と激減した。国内では札幌と小樽が約8割減となったのに対して沖縄は約4割減と、国内でも地域によって差が出ている。

 

トーハン・大西部長

 趣味・実用のマイナス要因は明確ではないというが、「このジャンルは出版社からの新刊搬入部数が前年同期に比べて減少傾向にあり、あくまで憶測だが、企画によって出版社が刊行時期を慎重に判断している可能性はある」とトーハン営業統括部・大西浩平部長は見ている。

 

 コミックスやムックを含めた新刊全体でも同社の3月搬入部数は前年同月比で12%減少している。例年3月は年度末に向けて新刊搬入が増える時期だが、今年は通常の月に比べても「5~6%は少ない」といい、書店への送品金額は前年同期を大幅に下回っている。その減少分をコミックスと学参・辞典、児童書などの伸びがカバーしているといえる。

 

配送施設の人手確保も課題に

 

 書店の状況は、立地では商店街、住宅街、郊外、規模では200坪以下という、いわゆる地域書店で100%超えしている店が多いのに対して、ターミナル駅周辺、ビジネス街立地と200坪以上の大型店は落ち込んでいる。

 

 一方、東京都をはじめとした首都圏や大都市で外出自粛要請が出された3月28、29日の週末は、各地で大型商業施設が休業するなどしたことで、トーハンが事前に把握しただけで取引書店43店が休業したという。今後も週末の営業自粛は続くとみられ、感染拡大が強まれば、さらに休業する書店が増える懸念がある。

 

 また、出版物の販売で想定される感染症の影響としては、多くのパート従業員やアルバイトの労働力に依存している書籍・雑誌の配送施設で今後、外出自粛や多くの人が集まる職場が敬遠されるなどの要因で、人の手当に支障が出かねないリスクがあるという。

 

 「書店の立地やジャンルにより一時的に売り上げの増減が出ているが、コロナの影響は見通し難く、長期戦の可能性も考慮してさまざまな対策を練る必要がある」と大西部長は危機感を強めている。

 

【星野渉】