ドイツで大手取次会社が経営破綻 その原因と影響をレポート

2019年3月25日

 雑誌市場の急速な縮小に伴い、取次による出版流通網の維持が難しくなる中で、書籍だけで成り立ってきた諸外国の出版流通への関心が高まっている。なかでも、出版取次が書店から受注した商品を即日配送したり、書店が電子書籍やプリント・オン・デマンド(POD)を販売するためのプラットフォームを提供するドイツが今後の出版流通を考える上でモデルになると言われている。そんなドイツで2月、大手取次のうち1社KNVが経営破綻したというニュースが飛び込んできた。

 

 ドイツでもアマゾンのシェアが拡大し、従来型の書店は減りつつあると言われるが、KNVは新設した流通センターの運営がうまくいかずに巨額の負債を抱えたという。

 

 同社破綻の原因や、出版社などへの影響について、文化通信社のドイツ視察ツアーのコーディネーターを務めたアンゲリカ・キーランさんにレポートしてもらった。

(編集部)


取次KNVが破産を発表

 

破綻の原因になったというロジスティックスセンター

 

 ドイツでは2月14日、大手取次上位3位に入るKoch,Neff&VolckmarGmbH(KNV)が破産を発表し業界を震撼させた。

 

 KNVはシュツットガルトに本社を置く大手書籍取次で、年間売上金額は5億4650万ユーロ(約683億1250万円・1円125円で換算、以下同)。破産時点で従業員数は約1900人、取引出版社は5000社以上。取次として約5600店舗の書店に書籍を卸すほか、書店への物流代行として約2200店舗に商品を配送している。

 

 ドイツには同社のほかにリブリ、ウムブライトという3社の主要取次があるが、リブリとKNVで書籍市場をほぼ2分する。また、従業員数ではKNVが最大規模。そして取引先に小規模な版社が多いことがKNVの特徴になっている。

 

 同社は1829年に書店兼問屋として創業し、1847年から書籍取次事業を始めた老舗だ。1920年にはいち早く「書籍車両(書籍を積んだ車両を列車に取り付けるシステム)」と「翌日配送サービス」を開始。1975年には電子発注システムを導入するなど取次事業を発展させてきた。

 

 そして2013年、旧東ドイツ・エルフルトに、今回の破産の要因にもなったロジスティックスセンターを建設した。

 

KNV破産の原因

 

 ドイツでもアマゾンのシェアやインターネットの拡大、読者の減少など書籍販売業の環境変化が進み、書籍市場の厳しさも同社破産の要因のひとつといえるが、ドイツの出版業界では、KNVの破産は企業経営の問題だという指摘が多い。

 

 競争が激しい市場で、最新設備で競争力を高めようと計画されたエルフルトの新ロジスティックスセンターは、建設に1億5000万ユーロ(約187億5000万円)を投資し、チューリンゲン州政府からは2200万ユーロ(約27億5000万円)の補助金を受けたが、稼働後に管理ミスが重なり運営に大きな課題を抱えてしまった。

 

新ロジスティックスセンターの内部

 

 そのために、本来は新ロジスティックスセンターの稼働に合わせて閉鎖する予定だった本社(シュツットガルト)のロジスティックスセンターも維持し、使用し続けざるを得なくなった。

 

 この2カ所のロジスティックスセンターに掛かる経費が膨大だった上に、14年には年間で一番重要な時期であるクリスマスシーズンに、書店への配達遅延によるトラブルが発生。その結果、売り上げを失った上に、取引先書店から激しい苦情が巻き起こり、顧客の信用を大きく毀損してしまった。

 

 16年3月には新ロジスティックスセンターの運営もある程度安定し、シュツットガルトのロジスティックスセンターを閉鎖することができたが、その後も納期遅れが多発して、顧客側からの苦情は増えた。

 

 納期遅れの原因は、工程管理の単純なミスだった。例えば、商品を梱包する時間がトラックの出発時間と正しくリンクされていないために、商品が出荷に間に合わなくて遅れてしまうといったトラブルだった。

 

 こうした状況によって、借入金が膨らんでいったという。16年の決算書による借り入れ金額は1億8000万ユーロ(約225億円)。複数の銀行から借り入れを行っていたKNVは、経営安定のため出資者を探し、一時は出資の約束を取り付けたといわれるが、最終的に2月13日の交渉が決裂し、翌日には破産を発表せざるを得なくなった。

 

ドイツにおける破産とは

 

 ドイツでは企業が債権の支払や従業員の給料支払ができなくなる場合、破産を発表することが法的に義務づけられている。

 

 企業が破産を発表した時点で、裁判所は管財人を選任して、3カ月間は国が従業員の給料を支払い、この期間に経営者は管財人と協力して、再建に向けて努力する。

 

 裁判所は3カ月後に業績など状況を確認して、改善が確認できなければ、経営者を外して、管財人が単独で再建に向けた活動を行う。

 

 それでも回復のめどが立たない場合は、廃業して残った資産をすべて処分することになる。

 

 KNVの場合は、3カ月間の期間中のため、とりあえず現在も営業を続けている。

 

出版社支援の動き

 

 小規模出版社は債権者としての優先度が低く、管財人などから注目されにくいため、破産発表によって、こうした出版社の一部へは支払いが滞っている。特に取引先の経営破綻などに対応する中小企業信用保険に加入していない小規模出版社は厳しい状況にあるため、こうした出版社を援助すべきだという声が多い。

 

 この状況を受けて、ドイツの出版社・取次・書店のほとんどが加盟する業界団体「ドイツ図書流通連盟(BDB)」は、出版社に向けて法律的なアドバイスや、Q&Aと関連情報のマニュアルを発行して、毎日のように会員向けの勉強会を行っている。

 

 その内容は、KNVの破産発表前に発生した未支払金額の回収は可能なのか、可能であればどんな手続きが必要なのかという、債権者にとって重要な情報だ。

 

 勉強会以外にも、KNVの管財人に就任した弁護士のTobias・Wahl(トビアス・ワール)氏が現状について説明する講演会も行っている。

 

 もう一方の大手取次リブリは、年間売上高が20万ユーロ(約2500万円)以下の小規模出版社に、キャッシュフローの問題が発生しないよう合計500万ユーロ(約6億2500万円)を貸し出している。

 

新たな出資者を探せるか

 

 現状では、KNVに書籍を納品し続ける出版社も、取引を停止している出版社もあるが、現時点でKNVは書店に書籍を届け続けている。

 

 今後については、管財人が出資者を探して、KNVを再建しようとしているが、元出資者のThomas・Bez(トーマス・ベツ)氏は、BDBが発行する業界向け週刊誌『Boersenblatt』のインタビューで、これから成長を見込めない市場で、このような規模の金額を回収することは非常に難しいと、悲観的な見通しを述べている。

 

アンゲリカ・キーラン

 


*ドイツの取次=ドイツでは、日本の取次のような新刊配本はなく、新刊書もすべて書店が事前に発注している。そして、書店は出版社からの直接仕入と取次からの仕入を併用している。

 

 多くの冊数をまとめて仕入れる大手書店は、より卸正味が低い直接仕入の比率が80~90%に達するが、小規模書店は取次からの仕入の比率が高い。このため、日本に比べると書籍流通に占める取次の比率は低いが、取次各社は書店が18時までに発注すると翌朝6時までに配送する「翌日配送サービス」などで直接取引に対抗している。

 

 KNV以外の主要取次の規模は、リブリが従業員数800人、年間売上金額は非公開、ウムブライトが従業員数300人、年間売上金額100~20億ユーロ。