首都圏出版人懇、20周年でフォーラム 佐野眞一氏が講演

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2011年6月28日
首都圏出版人懇談会は20周年を迎えたのを記念して6月25日、東京・千代田区の明治大学紫紺館で記念のフォーラムとレセプションを開催。ノンフィクション作家の佐野眞一氏が東日本大震災に関する基調講演を行い、「出版界も3・11以降、出版の精神を大きく見直さなければならないだろう」と述べた。同懇談会は90年に15社で発足し、共同での書店フェアの開催、目録作成、研修会の開催などの活動を続け、現在は神奈川、東京、埼玉、茨城、栃木、群馬、千葉、福島の1都7県に拠点を置く17社が加盟している。フォーラムに先立ち、星野和央会長(さきたま出版会・埼玉県)は「会員各社は創業から20?40年とさまざまな歴史を持っているが、東京文化圏の中で地域と向き合って出版の仕事をするのは並大抵なことではない」とあいさつ。佐野氏は「震災・地域―出版のいまと未来」をテーマに基調講演し、近著『津波と原発』(講談社)の取材で、津波被害を受けた三陸海岸を回り、放射能洩れ事故を起こした福島第一原発に1?の距離にまで迫った体験から、「東北の人々の我慢強い沈黙に対する想像力が、全ての日本人に問われている」と述べ、新聞報道の問題点や、天皇制との関連などにも言及した。また、出版については「出版の精神を大きく見直さなければならない」として、準備していた著作の中で、震災を超えて出す意味があるものと、意味が失われたものがあるとし、「本当に読みたいもの、聞きたいことが違ってくる。古典は変わらないだろう」などと述べた。続いて、地方・小出版流通センター・川上賢一社長の司会で、星野会長、佐野氏、歴史春秋社(福島県)・阿部隆一社長によるシンポジウム「地方出版に未来はあるか?」を開催。星野会長は「かつて地域のサロンだった老舗書店がなくなる中で、本を出すことを通じて出会った人々のネットワークを構築する」と地方出版の意義を強調。阿部社長は若松市役所職員として地史の編纂に携わったことをきっかけに「自分が好きなことを一生やろう」と出版社を創業し、43年間にわたって活動してきた経緯を報告し、「地方出版社はどういう本を出すのかをいつも考えている。市民が求めるものは変わっている。原発の問題も避けて通ることはできない」と述べた。佐野氏は、地方出版の可能性について「中央集権的なシステムは亡びていくと思う。だからといって地方出版が隆盛を得るということではないが、限界集落の問題などから、むしろ地方出版の今後の在り方がみえてくる」と述べた。レセプションではソプラノ歌手・浅香薫子氏のコンサートに続いて懇親会を行った。