集英社文庫、カバーの反り返り防止に成功

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2010年7月23日
集英社は今夏の文庫フェア「ナツイチ」用に出荷している商品から、文庫のカバーコート素材を、日本初のナイロン素材(名称=レイフラット)に変更。カバーの強度を保ちつつ、PP(ポリロプロピレン)素材で頻発した高湿度時期のカバー・表紙の反り返りが起こらない文庫カバーを実現した。以前の文庫カバー表面はプレスコート加工。しかし、紙素材のためカバーが破損しやすく、強度を増す意味で06年からカバーをPPフィルム加工とした。ところが、カバー本体の紙は吸湿・膨張するのに、表面のPPは吸湿・膨張しないことから、湿度の高い時期に面陳した表紙がめくれて見苦しくなるなどの問題が発生、「どうにかしてほしい」という要請は例年各書店からあった。同社が対応を模索する中で、加工会社からアメリカの書籍で使用されている新素材「レイフラット」の提案を受けた。アメリカでは書籍の取引も原則買切条件のため、カバー破損は書店の損害となる。そのため10年ほど前からカバー表面にナイロン素材が使われ始め、現在では一般的に導入されているという。同社は昨年10月、新素材レイフラットを使ったカバーの文庫と、既存の改良型である?表紙の紙を厚くした文庫?カバーの折り返しを長くした文庫を作成、クーラー排気口上に3日間置くテストを行った結果、?、?はほとんど効果が見られなかったが、レイフラット加工の文庫は満足行く結果が得られたという。レイフラットは、既存のPP加工に比べてコストが1・5倍以上。しかし、書店からの要望に応えるべく、関連部署が連携し1年かけて、本文用紙の連量を若干抑え、嵩高な用紙に変更、製版工程のデジタル化といった他の部分のコスト見直しで吸収した。もともと「2010年の『ナツイチ』に間に合うよう結論を出そう」(制作部・島田雄一郎さん)としていたが、今年3月の段階でコスト吸収の目処が立ったという。印刷・加工・製本でもトラブルがなく、5月新刊13点からの本格的導入もスムーズにスタート。書店店頭には6月25日店着の「ナツイチ」からとなったが、書店からは「かなり改善されている」と評価の声も上がっているようだ。今後、新刊、既刊増刷からは、レイフラット加工のカバーとなるが、素材感に変わりがないことから、店頭でユーザーが戸惑うこともないようだ。文庫カバーにPP加工をしている文庫レーベルが多い中、あえて同社が日本で始めてレイフラットを導入したのは、「集英社文庫として一番大切な時期に、他社の文庫に見劣りする部分があってはいけない。何としても『ナツイチ』は他社に負けない」(島田さん)という強い思いからだというだけに、「書店の皆様には、『ナツイチ』毎年カバーが反り返ってご迷惑をおかけしたが、今年は抜本的に改善されたので大々的に面陳して、反り返らない「ナツイチ」文庫を展開していただければ」と話す。集英社文庫はカバーの他にも、束がある(500?600?)作品には早い時期にPUR(ポリウレタンリアクティブ)系接着剤の採用、耐久性向上と開きのよさを実現しており、造本としての文庫の進化は、今後も続くようだ。