パネルディスカッション「出版業界の元気を取り戻す」 中部トー

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2007年10月22日
創立40周年を迎えた中部トーハン会。記念事業の締めを飾ったのが10月18日、名古屋国際ホテルで開催された第40回総会での日本書籍出版協会・小峰紀雄、日本雑誌協会・村松邦彦、日本出版取次協会・山?厚男、日本書店商業組合連合会・大橋信夫の各氏という、出版業界の川上・、川中・川下の4団体トップが一堂に会してのパネルディスカッション「出版業界の元気を取り戻す」。コーディネーターを務めめた中部トーハン会・?須博久会長の巧みな聞き出し術もあり、約1時間半に及ぶ熱いディスカッションが行われた。?須 本日はこのような無謀とも言える企画に対し、幸いなことにも4団体トップの皆さんがすべてお集まり下さいました。このパネルディスカッションをするにあたり、共通認識として、どのように出版業界が元気を取り戻すかについて話し合っていきたいと思います。また、それぞれのお立場、個々の見解に関しては、必ずしも一致することばかりではないとは思いますが、忌憚のないご意見を述べていただきたいと存じます。はじめに小峰理事長に伺いたいのですが、読書推進について業界内部にとどまらない多様な取組をなさっていますね。【24日に文字活字文化推進機構を設立】小峰小峰 まずご報告ですが、10月24日、文字活字文化推進機構を設立させます。目的は、出版界、新聞界が軸となって経済界にも働きかけ、文化振興のためのいわば国民運動にしたいと考えています。これは、90年代前半からの試行錯誤も含めた数々の経緯の上にあることなのですが。?須 村松理事長にお尋ねします。出版業界の中でも昨今、雑誌が低迷しています。私はかねてより、本屋にとって雑誌は?米の飯?との考えを強く持っております。定期購読の獲得が、町の書店が生き残っていく上で重要だと思うのですが。【雑誌低迷の一番大きな原因は書店の減少】村松村松 雑協としても危機意識を持っています。雑誌の低迷が出版界全体に対しても大変大きな影響を与えておると。かつては私どもも雑誌でかなりの利益を得ておりました。ところが最近は、雑誌が赤字化してしまう。これは販売はもちろん、広告もかなり落ち込んでいます。5年前から比べますと500億減ほどです。同時に販売に関しても皆様ご存じの通り10年前と比較しますと、売り上げ、発行部数の減少と共に返品率の悪化もあります。7・4ポイントほどの上昇です。発行部数も39億部だったものが現在では27億部です。この間、発行点数は増えている訳ですから、雑誌1点あたりの数字を考えますとかなりの落ち込みとなりますから、それが結果的に赤字体質を招いてしまったと思います。いずれにしましても大変厳しい状況ですから、今後どのような施策を講じていくかが喫緊の課題だと考えます。取次さん、書店さんとも知恵を出し合っていきたい。広告面に関しては、広告主の皆さんにお集まりいただき、雑誌というメディアの持つ素晴らしい点をアピールしてまいりたい。特に読者との?絆?を深めるメディアであるということを強くアピールし、ご理解をと思っております。もちろん、雑協としましても定期購読の拡大に取り組んでいます。多くの書店さんにご参加をいただき、トーハンさんにも大変なお力を賜っています。昨年は9800だった定期購読数が現在は1万3千以上に増えました。定期購読が誰にとってメリットになるかというと、読者に対してのデリバリーが可能になるわけです。数が増えればそれだけ、出版社のチラシとかカタログ類の同時配達ということになればコストも下がりますしね。我々の業界だけではなく他業界の力をもお借りすると申しますか。そのような方策を考えることが何より必要な時期にきていると考えています。書店の店頭は、おそらく小売業の中で単位面積あたり最もお客さんが入る場であると思います。そういう意味では、書店にいらっしゃる客を単なる読者という視点で捉えるのではなく、より広い視点から?消費者?と考える、そういう発想も必要でしょう。店舗の活性化を図っていくためにも。しかし雑誌低迷の一番大きな原因はと考えますと、なにより書店が無くなってしまったと。ここ5?6年の間に5千軒近くの本屋さんが町から消えてしまいました。仮に消えた本屋さんが雑誌を年間5千万売っていただいていたとしますと、2500億の市場が消失したとも言えるわけです。そしてこの数字をCVSとか大型店でカバー出来るかというと、私どもの試算ではせいぜい1割か2割です。雑誌というものは、書籍もそうですが本質的に?最寄り商品?ですから、近くに本屋がなければ、遠方までわざわざ雑誌を買いに行くということはしないのです。従いまして、今こそ中小の書店を無くしてはいけないのだということを業界全体で考えていかないと、業界のシュリンクに拍車がかかる一方だと考えます。そのためには、業界三者で定期購読に関して、配達その他含めて経費を負担し合うようなことも行っていく必要があるでしょう。?須 中小書店を無くしてはいけないとのお話がでました。トーハンは中小書店を支援していくとの考えをかねがね表明しておられるますが、出版社と書店とを繋ぐ取次業として、具体的なことを山?会長に伺いたいのですが。【トレーニングを積んだ100人程の営業マンを養成】山崎山? 取協会長としてというより、トーハン社長としての回答になろうかと存じますが。中小書店が減ることによって、それだけ大きなマーケットが消失しているというのは事実です。なにより書店さんで本を買うという習慣がなくなってしまう。読者、消費者サイドから見ても不便この上ない状態になってしまう。このことに関してはトーハンだけではなく他の取次会社も含めて危機感を感じています。雑誌の供給を拡大することによって固定客を増やすのが何より大事でしょう。またトーハンが推進しているe―honブックライナーに関しましても、ひとり1人のお客様と相対した?one to one?の取引をアマゾン等のネット書店の専売特許にさせず地域と密着した書店さんが行うことで、「フェースtoフェース」とネットの利点を活用していただきたいと考えます。そのような仕掛けを書店さんに、もっともっと使っていただけるような形にしていきたい。この業界が存在していくのに不可欠なものが3つあると考えます。ひとつは読者の存在、2つ目がコンテンツ、3つ目が優れた流通販売機能。この3つが相俟って発展しない限り、業界そのものの発展もないと思っています。そして何より重要なのが再販制度の堅持。再販制度が出版業界にとってのインフラとしていかに大切かも、改めて考える必要があるでしょう。話が前後して申し訳ありませんが、トーハン桶川が全面稼働という段階に入りました。何より問題になるのは確実な商品確保と供給だと思いますから、大規模書店さんに負けない品揃えが可能なシステムを、徹底的にやっていきたいと思います。人的な面に関しても、今、100人程の新たなトレーニングを積んだ営業マンを養成しているところです。書店の現場で書店さんと一緒に、知恵と汗を出していけるような、過去にはなかったようなリテールサポートを行ってまいります。?須 大橋会長に伺いたいのは、昨年度、書店実態調査を日書連で行いました。その中でいろいろな要望がありましが、そのような厳しい環境の中、町の本屋が元気を取り戻すために何が出来るか? 何をなすべきか?ということです。【ポイントを付けるなど実質的な値引きは遺憾】大橋大橋 日書連は最盛期1万数千の組合員がいた頃から比べますと半減しているのは事実です。なぜ町の本屋が消えていったのか、現に今も消えつつあるのか。先程、村松理事長から町の本屋が消えると雑誌が売れなくなってしまう、とのお話がありました。しかしながらこれは、卵が先か鶏が先かという問題でもある訳です。書店実態調査における組合員の回答、その中で要望という点でいうと、マージンの拡大、客注品の迅速・確実な送付、適正配本、支払いサイトの問題など多々ございました。しかしながら一番重要なことは、やはりベースにあるのは再販制度であると考えます。お客様に定価で販売できる商品というのは今は新聞と雑誌・書籍だけしか残っていない。かつて再販だった薬品、化粧品は外されてしまいました。なぜ新聞と書籍・雑誌だけが残されたかというと著作物だからです。今日のテーマは「出版業界の元気を取り戻す」ですが、これはとりも直さず、現状元気がないということを自認しているわけです。再販制度で守られているということ、当然その裏返しとして義務と責任を伴います。間違いなく版元さんが出版された企画を読者の手元に届けるという義務が課されている訳です。本屋がなくなってしまえば、その義務を果たすことも出来なくなる。ここで問題になるのは、競争の激化とそれに伴う苦しさのあまりか、ポイントを付けるなど実質的な値引きを行う方がいること。これは遺憾なことで、自らの首を絞める以外の何者でもない、という点も申しあげたい。競争はルールを遵守したフェアなものでなければなりません。どのように元気を取り戻すかというテーマに戻りますと、これは一言で言うとパイを大きくしていくしかないのではないか。具体的には、版元さんには雑誌にせよ書籍にせよ、より良い企画を出していただく。取次さんには、それを適正に配本していただきたい。そして我々本屋は、その1冊1冊を大切にお客様にお届けする、このことに尽きるでしょう。重ねて申しあげたいのは、全体のパイを大きくすることなく、業界が元気を取り戻すことなどあり得ないという点です。?須 4人の方々にお話をしていただきましたが、その中で共通のキーワードとして表れてきたのが再販制度と、読書推進で読者を拡げていくという2点ですね。小峰理事長に再度伺います。私自身は、個人でやる読書推進、書店でやる読書推進、団体でやる読書推進があると考えているのですが、今、小峰理事長が取り組んでいらっしゃるのは、さらに業界外にも拡げていこうというもので、大変なエネルギーを要するものだと考えますが。小峰 読書推進はまず民間が中心に行うべきもの、その上で、メディア環境の変化なども見据え、多メディア化の時代だからこそ、活字、本の復権が必要だと考えます。大橋 ネット通販の普及によって、書店の手を経ず書籍・雑誌が読者の手に届いてしまうという問題に加え、紙・活字によってではなく電子的方法で著作物が読者の手に渡ってしまう、ということに対する対応も問われると思います。村松 再販ということで申しますと、撤廃された場合、一番恐ろしいのは粗悪な商品の出現、跋扈でしょう。出版は言うまでもなく文化産業です。私は家電製品を量販店ではなく町の電気屋で購入することに決めています。本屋さんにも同じことが言えるかと。?須 貴重なお時間をお割き下さった4人の皆様、ありがとうございました。