【出版時評】2025年7月8日付

2025年7月8日

信頼関係だけでは成り立たない?

 

 公正取引委員会が小学館と光文社に対してフリーランス法に基づく勧告を行ったことは、出版業界に衝撃を与えた。この業界は多くのフリーランスに支えられてきたとはいえ、そんな法律ができたことすら知らなかったという業界人も多かったようだ。


 あらためて内容を見ると、依頼内容や金額の文書による明示など、取引するうえで当然と言えるが、長年の慣習からすると「そこまでやるの」と思わされることも。


 以前は、文書による出版契約を交わさずに本を出すことも多かった。特に文芸書などはそうだったと聞く。しかし、他業界から参入してきた電子書籍配信事業者が、著者と直接、契約を結び始めたことで、大きく変わった。いまや、電子書籍、オーディオブック、海外版など出版物の利用が多様化し、契約は不可欠になっている。


 契約や制度に縛られるのは堅苦しい。しかし、信頼関係だけでは、トラブルが発生したら対処できなくなる。特にフリーランスは立場も組織も企業と対等とは言えず、発注元の都合で割を食うことも多かっただろう。


 欧米では、大型書店のシェア拡大と、大手出版グループへの集約が進むのと軌を一にして、著者の代理人も力を発揮するようになったという(みすず書房『ブック・ウォーズ』)。今の流れを見ると、日本でもその方向に進んでいくように思われる。 【星野渉】