【出版時評】言論の自由を守る書店の活動

2022年8月23日

 作家サルマン・ラシュディ氏が、アメリカで講演中に襲われて重傷を負ったという。ラシュディ氏が1988年に刊行した『悪魔の詩』は、イスラム教を冒とくしたとしてイラン最高指導者が「死刑」宣告を出し世界的事件になったが、書店人がラシュディ氏を支え続けているという事実も見逃せない。

 

 日本では90年に新泉社が日本語版を刊行したが、記者会見で最前列に座っていた記者(?)が突然、会見用マイクをつかんで発表者に殴りかかったのを目の当たりにして背筋が凍り付いたのを憶えている。刊行後に翻訳者の筑波大学教授・五十嵐一氏が学内で刺殺されるという衝撃的な事件も起きた。

 

 『悪魔の詩』がアメリカで刊行されたとき、大手のチェーン書店はトラブルを恐れて販売を自粛したが、独立系書店は積極的に販売した。2014年に出版社ランダムハウスを訪れた折、ラシュディ氏が新刊プロモーションで独立系書店向けに書いた、かつての協力に感謝する手紙が付いたポスターが印象的だった。

 

 ラシュディ氏の講演で司会をしていてともに負傷したヘンリー・リース氏は、迫害された作家を支援するNPOの創設者だというが、同時に独立系書店の経営者でもある。作家を支援し続けることで言論の自由を守ることも、独立系書店の役割だという認識があるのだろう。【星野渉】