【出版時評】もうすぐ神保町界隈に

2022年6月7日

 コロナ禍で在宅勤務が進んだこともあり、広いオフィスが不要になって移転する企業が多い。それに伴い、都市部でも以前より賃料が下がっているように見える。出版社も所沢に新拠点を設けたKADOKAWAがこれまで借りていたオフィスビルから退去するなど、移転やフロアを縮小するケースがある。 

 

 こうしたケースとは違うが、日本文芸社が帰ってきた。帰ってきたと書くのは、かつて神保町にあった社屋から錦糸町に移った同社が、今回、神保町の隣町(?)一ツ橋のパレスサイドビルに移ったからだ。ADKからライザップ、そしてメディアドゥという親会社の変遷に伴っての移転だが、〝神田〟に戻った同社のオフィスからは、どことなく華やいだ雰囲気を感じた。 

 

 当社がある御茶ノ水から神保町までは、鉄道の便が悪く、下り坂でもあるので、歩いて行くことが多い。20分ほどで岩波書店、有斐閣、集英社、小学館などが集まる神保町の中心に至る。この辺りはこの仕事を始めた30年以上前からウロついてきた。 

 

 かつてあった中小取次の集約〝神田村〟はずいぶん縮小し、出版クラブ会館が移ってきたり、三省堂書店が休業するなど変化してはいるが、いまも街の雰囲気はそれほど変わらず、懐かしさをおぼえる。7月にはそんな神保町に近い神田錦町に移転する。勝手な思い入れで恐縮だが、なんだか待ち遠しい。  

 

【星野渉】