【行雲流水】文化通信2021年8月23日付

2021年8月23日

 某月某日

 富士裾野の山小屋で夏休み。"禁酒法"施行下でソト飲みができない分、バーベキューでイエ飲みする。御殿場「山崎精肉店」で求めた金華豚と和牛の赤身の塊を銀座バードランド主人の和田利弘さんイチ押しの「岩手切炭」で焼く。火持ちこそ備長炭ほどではないが、火付きが良く火力十分、ニオイや煙も少なく、爆ぜない。

 伐採適齢期の木を伐りだして材木やチップ、炭として利用することは、森林を健全に保つために不可欠である。森林土壌は雨水を地中に浸透させ、裸土に比べて10倍以上ゆっくり流出させるというから、洪水を緩和し、さらにミネラルたっぷりの美味しい水も育む。お盆以降降り続く雨を眺め、森の恵みに感謝する晩夏である。

 某月某日

 浅草「ちんや」が閉店する。明治13年に牛鍋と鶏鍋、36年にすき焼き専門店になった老舗である。江戸時代に将軍家や大名がこぞって飼っていた愛玩犬の狆を納め、獣医でもあった狆屋は、"業態転換"した後も屋号を残した。

 牛鍋とすき焼きの違いは肉を焼く前に割下を使うか否かで、関東では大した違いが無い。かの北大路魯山人は、肉を酒と醤油だけで焼き、次に昆布と鰹の合わせ出汁でネギを煮込み、どちらも大根おろしを載せて食べた。「甘くどいごち鍋」を嫌っていたという。

 「ちんや」の暖簾はウルフギャングステーキハウスなど様々な外食業態を運営するWDIが承継する。一頭の枝肉重量は480キロまで、A5ランクの肉は使わないという「適サシ肉宣言」は引き継ぎたいと清水謙社長。家業として続けた老舗のフィロソフィを守れるのはオーナー企業しかない。

 某月某日

 「週刊文春」と「週刊新潮」が電車内の中吊り広告を止めると発表する。8月26日発売号で終了する文春は、校了する直前にとれたスクープを中吊りに反映できないから、また、9月末で終了する新潮は、車内広告を見て雑誌を買うという購買モデルの効果が薄れたことが理由であると。

 車内はスマホを目にする人が大多数で、たまに見上げる先はデジタルサイネージである。かつては両誌の他、女性誌のセンセーショナルな広告が会話のネタになったものだが、今やスマホのニュースを転送し合う時代。なんとも寂しいことだな…と乗り継いだバスの車内で「週刊ダイヤモンド」の広告が存在感を放っていた。