【出版時評】大切な「うちの店で売れる本」

2021年2月22日

 書店現場で話を聞いていると「売れる本を送ってくれれば返品率は増えない」といった言葉をよく耳にする。条件を変えたりペナルティーを科すよりも、要は売れない商品を送らなければ返品にはならないということだ。

 

 確かに配本されたものが売れてくれればこんなにありがたい話しはない。しかし、どこででも売れるヒット商品は品薄になるのが当然だし、取次がピンポイントに個店の顧客に合う商品を「配本」するのは至難の業だ。

 

 ただ、先の言葉の初めに「私が見つけた」「うちの店で」を付けると現実的になる。メディアに取り上げられたとか、話題になった商品でなくても、自店のお客に売れる商品なら調達も容易だ。

 

 NHKテキストの定期購読獲得の取材で、東京・杉並区の今野書店を訪ねると、昨年8月に刊行された「100分de名著」の『ミヒャエル・エンデ「モモ」』を累計130冊ほど販売し、併売する岩波少年文庫『モモ』もそれ以来135冊販売したという。「売れない本を売ろうとするのは難しいけど、売れる本は徹底的に売る」と話していた。

 

 同店では今年1月刊の『カール・マルクス「資本論」』も斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)との併売で成功。おそらく日々多くの書店でこうした気付きがあるはずだし、その積み重ねが人気店を作るということは今でも確かなことだ。

【星野】