【行雲流水】文化通信2021年1月18日付

2021年1月18日

 某月某日

 親戚や義弟の家族の来訪もなく、静かな正月元旦の朝である。母と妻と3人で『味の手帖』でお世話になっている「新宿京懐石柿傳」と「金田中」のお節を啄む。

 西京味噌漬けの「ちしゃとう」は翡翠色の茎を宝石の翡翠になぞらえ、生鮨にした「さごち」は鰆の若魚ゆえ成長とともに名を変える出世魚、艶煮された「胡桃」は硬い殻が家庭を守ることに由来する、と目出度き所以を献立表で知る。なるほど、と舌鼓を打つ。

 午後はポン友夫妻が来訪。日本酒、シャンパーニュ、ワイン白・白・赤、ウイスキーを痛飲。

 某月某日

 午後より仕事始め。今年は神田明神への初詣を中止し、ウーバーイーツで餃子と鶏唐揚げ、寿司を取り寄せ、ビールと到来物の日本酒で小宴。歳暮の品々をじゃんけん大会で分け合う。

 のどかな年明けだが、イトーヨーカ堂の創業者、伊藤雅俊さんはかつて著書の中で、株式時価総額は名目GDPの半分くらいが適正であり、(98年の執筆当時)米国で150%となっているのは大恐慌前の様相を呈していると警鐘を鳴らした。10年後のリーマンショックを予見したわけである。

 今で言う「バフェット指標」では100%超を「過熱」とするが、コロナ・バブルで米国は180%、我が国も125%を超える危険水域に達している。バブルが弾けるのは時間の問題だろう。

 某月某日

 全国地域書店の団体「書店新風会」総会後の記者会見と、「新風賞」授賞式に出席する。

 総会資料には、昨年11月から2カ月間にわたり開催された「ギフトブックキャンペーン」の店頭展開の様子が写真で紹介されている。効果測定中であるが、プレゼント企画への応募状況では京都と茨城が突出して多かった。これは大垣書店・大垣守弘社長とブックエース・奥野康作社長のリーダーシップのもと、全社一丸となって取り組んだ証左に他ならない。両社の数字が楽しみなことである。

 新風賞を受賞した『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の著者、ブレイディみかこ氏からメッセージが寄せられ、イギリスの片田舎の話がこれほどまでにベストセラーとなったのは、ひとえに書店員の皆さんのおかげですと。ギフトブックキャンペーンも然りであるが、トップのリーダーシップと現場の熱量、当事者意識が成果を挙げている。

【文化通信社 社長 山口】